孤立出産し、手放さなければならなかった背景

「こうのとりのゆりかご」にはこれまでの16年間に170人の赤ちゃんが預け入れられ、そのうち孤立出産はそのおよそ8割に上る。

「こうのとりのゆりかご」を運営する熊本市の慈恵病院
筆者撮影
「こうのとりのゆりかご」を運営する熊本市の慈恵病院

慈恵病院では神経発達症(発達障害)を専門とする精神科医と連携し、孤立出産した女性や孤立出産後に赤ちゃんを殺害遺棄した女性の分析に取り組んできた。そして彼女たちの背景に、

① 知的障害のグレーゾーン(I.Q70〜84/標準値は100)
② 神経発達症(発達障害のこと/虐待により生じた二次障害を含む)
③ 被虐待歴
④ 母子関係(愛着障害)

のいずれかが関わっていることを突き止めた。

被告は三女のみならず次女も孤立出産していた。赤ちゃんを熊本に連れてきたとき、被告は家計の困窮についても病院関係者に打ち明け、「必ず迎えに来る」、そしてこのときも「ゆっくり考える時間がほしい」と話したという。

母親が娘を死に至らしめた原因を考える際、被告の背景にあるものを、上記の4点と照合して掘り下げる必要はある。それは誰もが思うことだろう。

母親に障害があったかどうかはわからぬまま

だが。

検察はもとより弁護側も精神鑑定に基づいた検証をしなかった。

慈恵病院では過去に6件の嬰児殺害遺棄事件で、拘置所に連携する精神科医を派遣して被告の精神鑑定を実施し、意見書提出や証人出廷など、被告の支援活動を行った。

本件の被告逮捕が報じられた1週間後、慈恵病院は被告が赤ちゃんを「こうのとりのゆりかご」に預け入れた事実の公表に踏み切った。死亡事件とゆりかご預け入れの関連は社会で検証されるべきとの病院側の考えに対し、三重県の関係者は個人情報保護の観点から問題視した。

「こうのとりのゆりかご」に預け入れた事実は司法の場や検証委員会が明らかにするべきこと、という考えもあるだろう。だが、実際には、裁判ではほとんどスルーされた。

なお、慈恵病院が三重県の弁護士会や法テラスを通じて裁判への協力を申し出たところ、弁護人から丁重な断りの手紙を受けとったという。

それはなぜなのか。

あくまで私の推測だが、慈恵病院が事実を公表したことに被告が反発を覚えた可能性はある。また、精神鑑定を行って拘留期間が延びることを、被告が希望しなかったことも考えられる。2人の娘が被告の帰りを待っているからだ。