漫画家・浦沢直樹さんの脳の休ませ方

とてつもない創造力を発揮する一流のクリエイターの天敵。それは、「生みの苦しみ」です。

新しいものを生み出す苦しさというのは、それが誰もが思いつかないようなことであればあるほど、大きなものとなります。

もちろん、クリエイターだけではなく、ビジネスパーソンであっても企画や新商品の開発などで、それこそ生みの苦しみを味わっているのではないでしょうか。

一見すればこの生みの苦しみに見舞われているときは、脳に相当な負荷がかかっているように思われている方もいるかもしれません。

ですが、その苦しみを乗り越えて、「いいものができた!」という瞬間の脳は、ドーパミンがあふれ、癒されているのです。

以前、あるテレビ番組の企画で、人気漫画家の浦沢直樹さんに、この生みの苦しみについてのお話を伺ったことがありました。

浦沢さんは、「ネームを書くのが一番苦しい」とおっしゃっていたのが印象的でした。

ネームはコマ割りやセリフなどで構成されていますが、漫画を描く工程というのは、それこそ半分以上がネームの作業になるのです。

それはまるで、100メートルの全力疾走を何回も繰り返すような苦しさがあるというのです。

マンガ原稿のペン入れをする女性
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※写真はイメージです

うたた寝をしながら全力疾走している状態

ですが、それが終わると一気に楽になってくるので、そこで一度脳を休ませるそうなのですが、脳科学的にいえば、この時間こそが次の生みの苦しみを超えるための儀式だということになります。

それは、ネームを考える仕事が終わって解放されたというよりも、脳を休ませることでいろいろな情報をつなぎ合わせているといったほうが正しいかもしれません。

そんな浦沢さんが、実際にどのように脳を休ませているのかといえば、ソファに寝転がるとおっしゃっていました。

リラックスした状態でソファに横になると、夢うつつになっていき、そこからパッと起きた瞬間に次のネームが頭のなかでできていることがよくあるそうです。

ここで興味深いのは、ソファに寝転がってうたた寝をするという部分です。

普通に考えれば、ただ休んでいるように思われがちですが、浦沢さんの脳のなかでは、そのときこそが最もネームを練っているときなのです。

つまり、うたた寝をしながら全力疾走しているという、何とも不思議な状態だということです。

このように脳を休ませながらも創造力を発揮するという習慣を持っているクリエイターは少なくありません。