リーマンショック前に戻っても同じ選択をしたかもしれない
リーマンショックがなければ、今すでに一兆円企業になっていたでしょう。また、ITバブルで飛躍した他の企業たちを見ても、グローバルで成功する企業がもっと増えていたかもしれません。日本のITベンチャー企業にとって世界と大きな差がついてしまった一つの大きなきっかけだったことは確かだと思います。
私自身、10年ロスしたことも含めて、世界に名だたる企業を作るという理想までは行き着いていません。でも、だからといって今すごく不満に思っているかというと、そうでもなくて。たとえて言うなら、富士山の頂上を目指していたつもりが赤岳に登っていて、「ここから富士山を見るのも案外、悪くないもんだね」と思っているような、そんな感覚でしょうか(笑)。
自分の座右の銘は、「人間万事塞翁が馬」。失敗の最中にあっても、「後々、この経験が実りをもたらしてくれるかもしれない」と考えている自分がいます、それこそ、リーマンショックの時の失敗も、「結局、あれで良かったのかもな」とも、よく振り返るんです。世界的金融危機があのタイミングで起こらなければ、多少無理してでも積極的なM&Aをしたことは後にプラスだったかもしれない。結果的に失敗したけれど、判断のすべてが間違っていたかというと、それも違うよな、と。
経営には、常に運もつきまといます。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」で、当時は突っ込んで火傷してしまった、ということなのかもしれません。だから、もし今の自分がリーマンショック前に戻ったとしても、やはり同じ選択をするような気もするんです。
(聞き手・構成=ライター・小泉なつみ)