両親の介護

2月になると、母親の物忘れ、薬の飲み忘れがさらに増え、体調もすぐれない日が多くなったため、白馬さんは強制的に訪問診療・訪問看護を、5月には訪問リハビリを開始。

6月には母親が体調を崩し、脱水症状で点滴をしてもらったところ、ケアマネジャーに「お父さんはいますが、もう日中、一人で家で過ごすのは無理です」と言われ、強制的に週2回のデイサービス開始。10月には訪問歯科を依頼した。

一方で、父親の介護認定調査は断念。なぜなら、「俺は大丈夫! 夜もしっかり寝られるし、自分で歩けるし、今のところ何不自由ない! 医者に面倒になることもないし必要もない!」の一点張りだからだ。

認定を受けるには本人の許可と医師の診断結果が必要だが、どちらも得ることができなかったため、「今回は認定調査を受けさせるのは無理ですね」と包括支援センターの職員に言われてしまった。

「買い物や家事などで私の時間が搾取されていますが、父は私に迷惑をかけているという認識はないようです。私が家を出れば、母は一気に認知症が進むでしょう。父は母の話し相手にも心の支えにもならないし、薬の管理も、もちろん介護も一切できません。ゴミ屋敷で虫の湧いた遺体発見! すでに死後半年……なんてことになるかもしれません。そんな状況で私だけ家を出るなんてできないです。私が我慢するのが一番の最善策。他に解決策が見つからず、考えても堂々巡りです。周りの人にこんな愚痴を言っても、引かれるだけなので言えません」

2023年12月。87歳の父親は歯磨きをしないため虫歯と歯肉炎だらけ。歯が1本もなくなり、固形物が食べられなくなったため、訪問歯科サービスを使わざるをえない状態に陥った父親は、ようやく介護認定調査を受け、翌年要介護1と認定された。

「母のことは、最期まで家で看てあげようと思ってます。でも、父には『自分でできるから介助はいらない』と言われているので、父から依頼されない限り一切手助けはしないつもりです。意思の疎通ができなくなったら、さっさと施設に預けたいです」

旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)
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なお、高校卒業後に家を出た弟とはほぼ音信不通状態だ。

「母のために、『せめて顔だけでも見せに来い』と連絡して昨年夏にやっと会えましたが、両親の身体を心配する言葉もなく、1時間程度で帰りました。もう弟には何も期待していません」

離婚と退職後、父親に丸め込まれる形で同居することになり、なし崩し的に介護に携わることになってしまった白馬さん。最後にこれから介護に携わる可能性のある人へ3点のアドバイスをもらった。

「1点目。実際にしてみてわかりましたが、自分の時間がなくなるので、同居は絶対にしないほうが良いです。2点目。別居のきょうだいに、話だけで介護を理解させるのは無理です。介護はやってみないと絶対分からないので、強制的に1日任せるなど、参加させないとわからないと思います。3点目。私の父のように、自力で生活できないのに介護拒否している場合、親を変えるのは不可能。こういう親には情けは不要です。頼ってくるまで放っておいていいと思います」

白馬さんはこれまでの父親との関わりの中で、「頼ってくるまで放っておこう」という結論に至ったわけだ。そこに至るには、他人が想像しえないような膨大な経験やシミュレーションがあってのことだろう。

それだけの覚悟や納得あっての決断なのだから、この先父親に何が起こっても後悔することはないはず。大切なのは、「自分はやれるだけのことは精いっぱいやった」という「納得のプロセス」なのだ。

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