どんな天才も「やり方」や「材料」が必要
「やり方」について、スポーツを例に考えてみましょう。
ゴルフの初心者がクラブを勝手に振り回し続けても、ボールが前に飛ぶようにはなりません。前に飛ぶような振り方をコーチに習ってから、それを繰り返すことで飛ばせるようになるのです。
イチローのような「天才」と呼ばれるバッターですら、最初は打ち方を習って練習します。
漫画『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈も、元プロボクサーの丹下段平から伝授される通りに、左ジャブからひとつずつ順番に打ち方を練習することで、不良少年から一流のボクサーへと成長していきました。
いくら彼が天才とはいえ、丹下段平は彼にいきなり好き勝手にサンドバッグを打たせたわけではないのです。
多くの教育者が、「勉強するときには自力で考えることが大切」と主張します。
ところが私は「数学のわからない問題は、いつまでも考え続けるのではなく、答えを見て解法を覚えたほうがいい」と多くの受験生に指導してきました。
ここで大切なことは、「自力で考える」には、そのための材料が必要ということです。
将棋の藤井聡太竜王の思考力には誰もが驚嘆しますが、彼は14歳でプロになるまでに膨大な棋譜、つまり「将棋の指し方」のパターンを覚えてきたのです。
インプットした棋譜の中から、局面に応じて近いパターンを抽出し、当てはめてみる。それを高速で何千通りも行い、最善手を見つけ出す。それが彼にとっての「考える」ということです。無から有を生むようなひらめきで駒を打っているわけではありません。
数学の答えを見て覚えることもまた、「問題の解き方」のパターンを仕入れ、それを使って「考える」ことが可能になるのです。
つまり、解法や棋譜のような材料があってはじめて、「考える」ことができるのです。
スポーツであれ将棋であれ、「やり方」があって、それを習うことで勝者になるのに、勉強はノートの取り方ひとつとっても、やり方を習っていない人がほとんどです。やり方を知らずに「できない」人が「できる」ようになることはまずあり得ません。
できないことの9割は「やり方」で攻略できる
私は子どもの頃からスポーツが嫌いで、いまも一切やりません。そうなったきっかけは、小学校1年生のときに、鉄棒の逆上がりがどうしてもできなかったことです。
最近になって、子ども向けのスポーツ教室を展開している会社の社長にその話をしました。するとその社長は、「うちの会社なら、逆上がりができない子に、できるように教えられなかった指導者はクビですね」と言っていました。
つまり、どんな子でも逆上がりができる「やり方」はある。少なくとも彼らにはそういう信念があって、できるかできないかは、子どもの運動能力ではなく、そのやり方を自力で見出すか、あるいは人に教わる機会があるかどうかの問題だというのです。
人が「できない」と思っていることの9割ぐらいは、コツややり方を教わればできるようになるものだと思います。
ましてや大人の場合、子どもの勉強と違って、何もかもできるようになる必要はありません。あるやり方を試して、できるようになったことがひとつでもあれば、それを武器にすればいい。「やり方」を知れば、それだけ「勝ち組」に近づけるのです。