子どもの成長と人それぞれの能力特性

人にはそれぞれ「能力特性」というものがあります。

たとえば記憶力はいいけれど考える力に乏しい、あるいはその逆といったことです。

実は、幼い子どものうちは誰もが記憶優位の特性を持っています。記憶力が抜群で、周りの大人が話している言葉を聞き、それを文法などの理屈抜きに丸ごと覚えることで、言葉を習得していきます。

語学習得で一番理想的なのは、そのように文章を丸ごと覚えることなのですが、大人になってからそれをするのはかなり難しく、いくら聞き流す語学教材などを使っても簡単には話せるようになりません。しかし子どものうちは、それができてしまいます。

その一方で、考える力が子どもの時代には十分に備わっていません。それがうまく備わるのはだいたい9歳ごろ。この時期を過ぎると抽象思考が可能になり、文章の読解や算数の文章問題など、比較的難度の高い問題ができるようになります。

これが「9歳の壁」と呼ばれるものです。

能力特性に合わせた勉強

しかし、この「9歳の壁」を越える時期には個人差があります。まだこの壁を越えていないうちに中学受験の塾に行かせたりすると、勉強にまったくついていけないという悲劇が起こりがちです。

その結果、「自分はバカだ」と思い込んでしまう子どもが大量に出るのがこの時期なのです。これは大きな問題です。

「9歳の壁」を越える前の子どもは、前述のとおり単純記憶力がきわめて高い状態にあります。たとえばこの時期に、漢字や歴史の年号などを大量に覚えさせれば、相当な量を覚えることができます。

それによって、その子は自信を失わずに済むかもしれません。その後、ほかの子より遅れて「9歳の壁」を越え、そのあとに思考力が必要な勉強を始めたとしても、すでに暗記している知識が多ければ、それを武器に中学受験でほかの受験生に勝てる可能性も高くなります。

このように、子ども個人に合わせた勉強をさせるべきなのに、塾の勉強のほうに子どもを合わせようとして、結果的に子どもを潰してしまうケースはよく見られます。大人の勉強でも、自分の能力特性に合わない勉強のしかたをしていて、そのためにうまくいかないということも多いのではないでしょうか。