政府の決意を示す具体的なビジョンを期待したい
手術には痛みが伴い、完治までに時間もかかります。このため、多くの政治家はできることなら「治療」に乗り出したくない、現実の重い課題に手を付けることを避けたいのが人情ですが、こういう時こそ、政治のリーダーシップが求められると思います。2023年秋、内閣支持率の低下という国民の反応も、まさにこうしたリーダーシップに原因があるのではと思います。抜本的手術には、消費と国内設備投資を増やすビジョン、政策を実行することです。自由社会、市場経済では、政府が企業の経営権に立ち入れないので、消費や設備投資マインドを促す雰囲気作り、誘導が必要で、何より政府の決意を示す具体的なビジョンを期待したい。
消費を増やすには、物価の安定と経営の苦しい中小零細企業を含めた賃金アップが求められます。設備投資をせず、内部留保を抱えるような余裕のある企業には、社員の賃上げだけでなく、仕入れ先企業からの仕入れ価格引き上げを実施するように促し、公正な取引の監視にまで踏み込む姿勢がほしい。国内設備投資拡大には、海外進出企業の工場・生産拠点の国内回帰を進めることも大切です。特に経済安全保障上、重要な防衛、半導体、製薬産業についての誘導策は不可欠に思えます。
企業の経営権に介入できない自由社会、市場経済の下では、真に社会に貢献する企業を評価する文化、世論の形成が鍵になるでしょう。江戸時代の思想家で、「道徳と経済の両立」を唱えた石門心学の石田梅岩の「商いは公の為にするもの」という言葉を皆で考える時です。
長く続いた内閣は「信念を貫いた」点が共通している
抜本的手術で経済の体力が回復してきた時にこそ、国民への説明を尽くし、長寿社会の財源を皆で賄うために、消費税率引き上げの議論を避けてはならないと思います。
これらは全てが、政治の先見性と決断に懸かっています。時代の証言者として振り返ると、中曽根、小泉、第2次安倍と、長く続いた内閣は、政策への評価は分かれても、ぶれずに自己の信念を貫いたという点が共通していたように思います。岸田首相にも参考にしてもらえればと思います。
すでに触れたように、経済・財政政策の手段として、国債は悪ではありません。ケインズが提唱した、不況期は国債を発行し、財政支出で有効需要を補うフィスカルポリシーは一世を風靡したものです。
問題なのは、不必要な公共サービスを、現在の有権者には痛みの伴わない国債を財源として実施し、人気と票を得ようとする政治です。高額所得者への給付などは、行うべきではありません。その償還、利払いは、今は投票権のない将来世代にのしかかります。G7(先進7カ国)の中で、GDP比では飛び抜けて国債発行残高の多い国である日本の覚醒を願っています。