「だから素人なんだよな」

僕が改めて思い出していたのは、カフェグルーヴで映画の配給を手がけていたときのことでした。

小さく始めた事業でしたから、海外で映画を買い付けるにも、予算がない。それこそ、500万円しか出せなかった。しかし、500万円で買える映画なんて、ほとんどありません。

そんなとき、出会った映画がありました。『約束の旅路』。制作はフランスの大手映画会社。

しかし、舞台はエチオピア、イスラエル、最後にパリと出てきて、何映画なのかもわからない。俳優の一人は、イスラエルでは有名な女優だといいますが、日本ではまったく無名。しかも、テーマはユダヤ教を扱った宗教もの。

「舞台がよくわからない。主人公を日本人が知らない。テーマは日本に馴染みがない。こんなの買ったら自殺行為だ。絶対に当たらないし、無理だよ。だから素人なんだよな」

そんなふうに、日本の映画関係者の間では言われていました。でも、僕は買う決断をするのです。なぜか。僕自身が感動したからです。観終わったあとに、一人試写室で号泣しました。なかなか席を立てなかったぐらい、素晴らしい映画でした。

素人だったから、突破口が開けた

ただし、買い付け最低価格は2000万円の提示。手の届く金額ではありません。

「500万円しか予算がない」と僕は言いました。「こんなに素晴らしい映画はない、やっぱり映画は素晴らしい」という言葉を添えて。

プロデューサーから僕に直接、電話がかかってきたのは、日本に帰国してしばらくしてからのことでした。

「あなたのことを徹底的に調べさせてもらった。純粋な映画人じゃないね、君は。だったら、500万円で構わない。やろう」

僕が配給したこの映画は、日本で大ヒットしました。そして、その映画を売ってくれたフランス人、ニコラとは今でも盟友です。