室温が下がるほど健康リスクが高まる

なお欧州の調査でも、冬の死亡増加率は、温暖なポルトガルやスペインが高く、北欧のフィンランドやデンマークは低いというデータが出ています。暖かいと考えられている地域でも、寒暖差で人が亡くなっているということを、しっかりと認識した上で対策を採る必要があります。

国際的な基準では、どれくらいの室温が推奨されているのでしょうか。2018年に、WHO(世界保健機関)は「住宅と健康ガイドライン」を発表しました。そこでは、寒さから健康を守る最低室温の基準として、居室を「18℃以上にすべき」という強い勧告を出しています。居室の温度がこれより低くなると、健康に深刻な影響が出るリスクがあるというのです。

WHO勧告の根拠のひとつとなったイギリス保健省イングランド公衆衛生庁「イングランド防寒計画」では、室温が18℃未満では血圧上昇や循環器系疾患に影響し、16℃未満では呼吸器系疾患に影響する恐れが報告されています。さらに室温が下がれば下がるほど、さまざまな疾患のリスクが高まります。

断熱性能が高ければ光熱費は節約できる

ポイントとなるのは「最低室温」という部分で、18℃あれば十分という意味ではありません。

寒さの影響を受けやすい高齢者や小児はさらに暖かい温度が必要とされています。より重要なことは、家族が集まるリビングだけでなく、「家全体が18℃以上」という点です。これを「全館暖房」と呼びます。欧米や韓国などでは、人のいない部屋も暖める全館暖房が一般的で、居室によって極端な温度差が出ることはありません。

家全体を暖房すれば、とんでもない光熱費がかかると思われるかもしれません。しかし、こうした国々の住宅は、一般的に断熱性能が高く、全館暖房をしても家計を圧迫するほどの光熱費はかかりません。

電球とガスのアイコンが付いた木製のブロックとコイン
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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日本では、住宅の断熱性能が著しく低いため、家全体ではなく部屋ごとに暖房する「間欠暖房」が一般的です。リビングに家族全員が集まってその部屋だけ暖房することは、一見すると効率が良さそうです。しかしリビングだけが18℃でも、廊下や脱衣所、浴室、トイレなどは極端に低温になるため、健康の観点からは推奨できません。図7で、北海道の冬季死亡率が低かった理由は、断熱性能を高め、全館暖房をしている住宅が多いからです。