リビングと脱衣所の温度差は15度以上ある

部屋間の温度差の大きさが健康に影響する例としては、いわゆる「ヒートショック」が知られています。主に冬の浴室やトイレなどで血圧が変動することで、失神、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすものです。

日本では、冬場の暖房の効いたリビングと、無暖房の廊下や脱衣所、トイレなどとの温度差は、平均15℃程度あります。暖かいリビングから、寒い脱衣所に行って裸になると、血圧が急上昇します。

さらにお風呂の設定温度を高めにしていると、湯船に入った瞬間に血圧が一気に下がります。血圧の急激な上昇と下降の繰り返しが、脳や心臓、血管などにダメージを与えます。それにより意識を失ったり、心筋梗塞を引き起こし、浴槽で倒れたり溺れたりしてしまうのです。夜中に目が覚めて、暖かい布団から寒いトイレに行くときも同様です。

では入浴中のヒートショックで、いったいどれくらいの方が亡くなっているのでしょうか?

正確な数は発表されていませんが、消費者庁によると、住宅のお風呂の中で溺れて亡くなった65歳以上の高齢者(溺死者)の数は、毎年5000人前後で推移しています(2021年は4750人)。また、入浴中に倒れて他の疾病に起因する病死として分類された方も加えると、約1万7000人と推計されたこともあります(11年。東京都健康長寿医療センター研究所)。

これには、命はとりとめたものの後遺症が残ったり、寝たきりになったりした人の数は含まれていません。それも入れれば、相当な数にのぼることは間違いありません。

ヒートショックの死者数は交通事故の6倍以上

全国の交通事故の年間死亡者数は、2610人(22年。警察庁)です。ヒートショックで亡くなる高齢者の数だけでもそれを大きく上回っていますし、1万7000人という推計値なら6倍以上にもなります。交通事故よりも、家のお風呂で亡くなっている方のほうが、はるかに多いのです。

不快感で胸に手を当てる男性
写真=iStock.com/PeopleImages
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この状況を受けて、健康と住宅の断熱性能の関係について研究を続けてきた近畿大学の岩前篤教授は、今後は「いってらっしゃい、気をつけて」ではなく、「お帰りなさい、気をつけて」と言うべきだと注意を呼びかけています。

ヒートショック対策として、自治体や医師が、浴室や脱衣所の暖房を勧めることがあります。一時的な対策としての意味はありますが、十分な断熱をしないまま暖房をつけると、効率が悪く、光熱費も上がってしまいます。ヒートショックの対策としても、脱衣所と浴室の断熱をすることは極めて重要です。