ほとんどの住宅が国際基準を満たしていなかった

欧州などでは、家を暖かくすることが病気を減らすという認識のもと、健康政策のひとつとして住宅政策が取り組まれてきました。一方で日本では、健康と住まいの関係が「エビデンスがない」との理由から軽視されてきたことで、防ごうとすれば防げたはずの住宅内での事故が、起き続けてきました。

しかし最近になって、日本でもようやく住宅と健康の関連性についての学術調査が行われるようになりました。国土交通省と厚生労働省による「スマートウェルネス住宅等推進調査事業」です。2014年度から23年現在まで毎年行われてきたこの全国調査のユニークな点は、建築分野の研究者と医師とが、共同で調査をしていることです。分野を横断するアプローチにより、新しい知見が積み重ねられています。

それにより、寒い住環境が高血圧や循環器系疾患に悪影響を与えることが明らかになってきています。そして、これまでにはなかった「生活環境病」という捉え方もされるようになってきました。以下に、同調査事業の成果の一部をお伝えします。

最低室温については、断熱改修を予定している全国約2190軒の戸建て住宅を対象として、冬の2週間の室温を10分ごとに測定した調査があります。リビングに加え、寝室や脱衣所も同時に測定したところ、約9割の住宅(断熱改修前)が18℃を下回っていました。日本ではほとんどの家が、WHOの基準を満たしていないことが裏づけられました。

断熱性能が上がれば脳卒中のリスクが低下する

断熱改修をした約2000軒の住宅に暮らす4000人ほどを対象に、改修前と改修後の健康状態の変化を5年間にわたって比較する調査も行われています。

この調査では、血圧について性別や年齢、肥満の度合いなど、条件を揃えて比較した結果、断熱改修後には起床時の最高血圧が平均3.5mmHg下がったという結果が出ました。一般的に高血圧の人は、脳卒中や心筋梗塞など深刻な病気にかかりやすくなります。

脳の血管と痛み
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そこで厚生労働省は、40〜80歳代の国民の最高血圧を平均4mmHg下げることを目標に掲げています(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標値)。それを達成できれば、脳卒中による死亡者を年間1万人、心筋梗塞による死亡者を年間5000人減らせるとしています。

これまで血圧を下げる対策としては、減塩や減量、適度な運動、禁煙や節酒などが推奨されてきました。しかし断熱や暖房によって室温を上げることは「科学的根拠が不十分」として、重視されてきませんでした。ところがこれらの調査結果によって、断熱改修でかなり大きな効果が得られる可能性が出てきました。