世界とその中の日本を一体的に理解できるようになる

こうしたさまざまな個別の歴史から、歴史的な概念を多面的に深めていくのが、歴史総合の学びなのです。

概念について考えることは、世界と日本との関係について考えることにもつながります。なぜなら、近現代の重大テーマである諸概念は、日本でもあてはまるからです。明治以降、近代化を進める日本は、身分制度の撤廃や平民からなる軍隊の創設、学制による国民教育などで国民を創出していきます。

そうした一連の国民化政策は、西洋諸国をモデルとしながらも、どのような点で異なり、どのような影響を日本の歴史にもたらしたのか。歴史総合では、歴史的概念によって世界と日本との関連性を理解し、比較していきます。これによって、「世界とその中の日本」を一体的に学ぶことができるのです。

近現代の歴史から「現代的諸課題」を考える

このように歴史総合では、ただ先生が生徒に一方的に教えるだけの授業ではなく、生徒自身に考えさせる授業が目指されているのです。

北村厚『大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合』(KADOKAWA)
北村厚『大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合』(KADOKAWA)

理科では教科書に書いてあることをただ暗記するのではなく、実験して確認しますよね。数学でも数式をただ暗記するのではなく、練習問題で使い方を身につけますね。それと同じで、歴史総合では資料と問いに生徒が取り組むことで、歴史の使い方を身につけるのです。

でも、この「歴史の使い方」というのはピンときませんね。何に使うのでしょうか? いろいろ考えられますが、歴史総合では「現代的諸課題」について歴史的に考えることが目指されています。

例えば国民と国民国家という概念は、決して19世紀で終わるテーマではありません。今まさに戦争によって多数の命が失われているウクライナやパレスチナの問題を考えるときに、19世紀以来の国民国家のさまざまなあり方を身につけておくと、歴史的な思考ができるようになります。

「ウクライナ人」とは何か。どのような歴史的経緯と特徴を持っているのか。どのような点で「ロシア人」のアイデンティティと対立するのか。このような歴史的な問いが、混迷する現代世界を理解するために必要な思考であることは明らかです。そして歴史総合での、「問い」によって「概念」を歴史的に深めていく学びによって、こうした思考力が身についていくことが期待されているのです。

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