用語が減って資料と“問い”が充実した

歴史総合は、2022年度にはじまった高校での必修科目のひとつで、近現代の「世界とその中の日本」の歴史を総合的に学ぶことを目的にしています。近現代の世界史と日本史を同時に学ぶこと自体まったく新しい試みなのですが、歴史総合の本当の意味での新しさはもっと違うところにあります。

まず、ほとんどの教科書で、書かれている歴史用語が少なくなっています。日本史部分の用語などは、中学校の歴史教科書とあまり変わらないほどです。そのかわり、「資料」と「問い」がたくさん掲載されています。この資料と問いこそが、歴史総合を暗記科目としないためのカギです。

フランス革命を例に、どんな資料と問いがあるのか見てみましょう。山川出版社の教科書『現代の歴史総合』では、フランス革命(ナポレオン時代を除く)について、1ページくらいしか本文がありません。そのうち3分の1ほどのスペースを資料に割いています。

そのうちのひとつは、特権身分の聖職者でありながら平民の味方をしたことで有名なシェイエスの『第三身分とは何か』です。第三身分とは、フランス身分制社会における特権をもたない平民のことです。

資料 『第三身分とは何か』(シェイエス、1789年)
……貴族身分は、その民事的、公的特権によって、われわれのなかの異邦人に他ならない。国民とは何か、共通の法のもとにくらし、同一の立法府によって代表される協同体である。……したがって、第三身分は国民に属するすべてのものを包含しており、第三身分でないものは国民とはみなされない。第三身分とは何か。すべてである。

「なぜ貴族は国民とはみなされないのか?」

今までの世界史の教科書にも、シェイエスの『第三身分とは何か』については、「第三身分とは何か。すべてである」という有名なフレーズとともに載っていました。しかし歴史総合では、その前の文章も資料として掲載され、さらにこういう問いが提示されています。

「資料で『国民』はどのように規定されているのだろうか?」

高校の教室では、先生は生徒に資料を読ませてこの問いを発します。歴史総合では生徒が主体的に考え、まわりとコミュニケーションを取りながら議論をすることを推奨しているので、グループワークを実施することも多いと思います。

私が先生なら、こんな問いに変更することでしょう。

「第三身分以外、つまり貴族身分も同じ国にくらしているのに、なぜ『国民とはみなされない』のだろうか?」

「第三身分にとって貴族は自分たちと同じ国民とは見なせないほど、18世紀フランスの身分制社会には問題があったんだ。じゃあその身分制社会の問題ってどんなものだったんだろうか」と、生徒たちはグループワークの中で、教科書を見ながらいろいろと考えだすことでしょう。問いが歴史的な思考をうながすのです。