夫が突然逮捕され、生活が一変

「私も事件後、何度もベランダから飛び降りようと思いました……」

千葉県に住む水谷紀子(仮名・40代)は当時を振り返りそう語る。都内の病院に勤務していた紀子の夫は、医師法違反、詐欺などの容疑である日、突然逮捕された。医師だと偽って講演で報酬を得ており、犯行に至った動機については「勤務先の待遇が不満だった」などと述べていたという。

パトカー
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家族の生活は一変した。都内の高層マンションを売却し、現在は離婚して千葉県内の家賃5万円のアパートに息子とふたりで暮らしている。

「家を手放さなければならないとわかったとき、いっそのこと、ここから飛び降りたら楽になれると思いました。いまでも高いところに行くと以前の生活を思い出して、飛び降りたい衝動に駆られるときがあります」

紀子の命を繋ぎとめたのは、息子の存在だ。当時、私立中学に通っていた息子の学費を支払うことができなくなり、転居先の中学に転校するが、これまでとあまりに違う雰囲気に馴染めず、息子は不登校になってしまった。

「夫の事件の責任は私にもあると思っています。ただ、息子にこんな思いをさせてしまったことが悔やまれてなりません……」

「お金さえ入れてくれていれば」

逮捕された夫は、紀子にとって再婚相手だった。紀子より一回り以上年上の相手で、前夫との離婚は、夫の会社の倒産がきっかけだった。どうやら、金の切れ目が縁の切れ目ということらしい。

「再婚して、子どもができてからは子どものことしか考えられなくなっていました。夫はほかに女性がいたようだし、お金さえ入れてくれていれば何をしても構わないと思ってましたから……。でもまさか、犯罪に手を染めるなんて……」

紀子は身なりはきちんとしているが、自分にお金を使うより息子の教育にお金をかけている「教育ママ」だった。

「いろんなことを学ばせてあげたほうが、将来の選択肢が広がると思って……」

事件直後の紀子はそう話していた。