平成に起きた客層の大変化
まねき通りの奥で営業する「Barダーリン」のマスターである俳優・石川雄也さんもそのひとりだ。
「お店は開店して16年目ぐらいかな。その前に別の店でのバイト期間が5年ぐらい。知り合いのママさんがゴールデン街でショットバーを出したいって言うんで、俺が昔、バーテンやってたことがあったから、教育役で教えに来てくれないかって。
でも、オープン1週間前ぐらいに、店長やるはずだった人が飛んでしまって。
で、しょうがなく『新しい人決まるまで』って言って昼間の仕事とかけ持ちしながらやってたんですけど、思いのほか人気店になってしまってね(笑)。抜けるに抜けられなくなったんで、もう昼間の仕事やめて。そこからズルズルと20年」
いまでは映画好きが映画談議に花を咲かせるバーとして知られる「Barダーリン」。過去にはクエンティン・タランティーノ監督がふらりと入ってきたり、園子温監督があのニコラス・ケイジを連れてきたりしたこともあるという。店内にはインディペンデント系の映画や舞台のフライヤーが並べられており、酒とともに、そのうちの1枚を手渡してすすめてくれた。
「俺が来始めた二十数年前とかは、まだ店先で呼び込みしてるおばちゃんとかオカマさんとかいましたね。外に丸椅子を置いて座って『兄ちゃん、どうぞ!』って。入りづらい、怖い感じの店もありましたね。スーツ着てるけどシャツは血まみれ、みたいな人も路上にいたし。
あとは、お客さんもね。昔は戸を開けて営業してると、路地の反対側の店から喧嘩して椅子ごと転がり込んでくるおじさんとかもいましたね(笑)。
向かいも戸を開けてるから。入ってこられた店のママが止めんのかなと思ったら、扉閉めてタバコ吸いながら待ってるっていうね。ある意味、正しい対処ですよ。最近はそういう人もほとんどいなくなりましたね」
外国人観光客の増加
ここ数年は若い世代の出店が増え、また、海外のガイドブックで紹介されるなど、外国人観光客も多く集まるようになってきている。ある意味、「観光地化」されているともいえる。
「不思議なのが、いまだ20代の若い人たちがそういうイメージを持ってるってこと。来たことがない人にまでも脈々と怪しいイメージが共有されてるんだなって。でも、一回来てみたら全然。面白いし、安全だし、楽しいしって感じで、4〜5軒ハシゴする女の子たちも結構増えてます。
その半面、やんちゃな店も増えてますよね。個人的にはゴールデン街は文化的な大人の街であってほしくて、そんな場所を維持したいとは思っています」
新型コロナウイルス禍はまだ続くが、ゴールデン街はかつての客足を取り戻しつつある。長い休業期間を経てそのまま閉店してしまった店も多いというが、新規出店の人気は落ちない。
石川さんによると、物件がすぐに埋まるどころか、30〜40人が空くのを待っている状態だという。コロナ禍によって落ち着きを見せたインバウンド需要も、再び盛り返している。
通りに出ると、雑多な喧騒に交じって、さまざまな国の言語が飛び交っていた。陽気なグループがすれ違う他人とハイタッチを繰り返す。煌々とした明かりは消えぬまま、夜が更けていった。(平野貴大)