2023年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。教育・子育て部門の第2位は――。(初公開日:2023年7月13日)
今、子供の間でさまざまな感染症が流行していて、小児科の発熱外来が混雑しているという。小児科医の森戸やすみさんは「マスクの着用や新型コロナワクチンのせいだといううわさが流れているが、根拠はない。マスクの着用や手洗いなどの感染対策が緩んだことが原因の一つなので、むしろそれらの見直しを」という――。

※小児科外来および感染症の流行状況などは、初公開当時のものです。

マスクを着用し、咳をしている男の子
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです

例年と違って小児科は発熱した子供でいっぱい

毎年、大型連休であるゴールデンウィークが終わると、小児科外来は患者さんが減ります。小児科は風邪やインフルエンザの流行する冬のほうが患者さんが多く、夏は少ないのが通例なのです。ところが、今年はどこの小児科クリニックの外来も、発熱した子供たちでいっぱいになっています。クリニックだけでなく、病院の小児病棟も満床になっていることが多いようです。

これは今、子供の間でさまざまな感染症が流行しているため。RSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスの感染者が増え、これらは検査キットで特定することができます。他にもさまざまなウイルスや細菌が蔓延しています。小児科では症状からどの感染症かを予想したうえで検査を行いますが、特定できないケースも少なくありません。このほか、ヘルパンギーナ、手足口病、突発性発疹なども増えていて、百日咳や水ぼうそうの子もちらほらいます。

こうした例年にない状況は人を不安にさせるのでしょう。「新型コロナ対策でマスクをつけていたために、子供の免疫力が落ちた」「新型コロナワクチンを接種したから、子供の免疫が低下した」「子供には、もっと風邪をひかせておくべきだった」などという説がまことしやかに広まっています。でも、最初にお伝えしておくと、これは間違いです。今回は、その理由を詳しく説明したいと思います。

「マスク生活で免疫が落ちる」に根拠なし

先日、ある新聞が、現在のインフルエンザの流行は「コロナ禍のマスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちたことが原因だ」と断じ、「専門家は『子供にとって怖いのはコロナよりインフル。心配な人はワクチンを打ってほしい』と話す」と書きました。この記事は、さまざまな箇所が間違っています。

まず、この季節にインフルエンザワクチンを接種できる医療機関は、ほぼありません。インフルエンザは、通常12月から翌年の2月ごろに流行する感染症です。そしてインフルエンザワクチンは、WHO(世界保健機関)が次シーズンにはどの型が流行するかをが予測し、それに基づいて各製薬会社が秋までに製造します。そうして各医療機関に供給されたワクチンは、毎年10〜12月ごろに接種され、残ったら春までに返品されるのです。

次に「マスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちた」というのは、どういう意味でしょうか? インフルエンザに対する抗体を全員が持っていたのに、マスクが習慣になったせいで一斉に減少したということでしょうか? この記事を書いた記者は、実際の抗体検査の結果などの根拠を示していません。インフルエンザが増えた理由が、免疫の低下にあるとは到底いえるはずがないでしょう。