住民票を移すだけで「住んでいる証明」に

自己用の不動産購入に限って利用できるフラット35を、投資物件を販売する不動産会社はどうやって利用したのでしょうか?

フラット35の貸付条件のひとつが、「購入者自身が買った不動産に住む」というものです。

そのため、最終的には買った不動産に住んでいるという証明が必要で、例えば、住民票や公共料金の明細などが提出条件となります。万が一、この条件が満たされなかった場合には、融資契約の違反とみなされ、融資金の一括返済を求められます。

しかし、居住証明は住民票を提出すればいいという簡易的なもので、住宅支援機構が現地をわざわざ確認することはありませんでした。

不動産会社はその“穴”に付け込んで、借り手が一時的に買った物件の場所に住民票を移し、融資が実行された数カ月後に元の住所に再び住民票を戻すという禁じ手を指南していたのです。

また、住民票上では、借り手は買った不動産に住んでいることになっているので、住宅支援機構や銀行からの郵便物はその住所に届くことになりますが、借り手宛ての郵便物は郵便局止め扱いにして、差出人に戻らないようにも助言していました。

したがって、住宅支援機構や銀行にはこうした不正行為が見抜けなかったわけです。

マンションの模型を持つ男性の手元
写真=iStock.com/mapo
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調査の結果、150人が一括返済を求められる

これが、フラット35を不動産投資物件の購入に使ってもバレないというスキームでした。

この類いの不正行為が発覚してから、住宅支援機構は融資対象物件の全調査を行い、そのうち約150人の不正利用者に対しては一括返済を求めました。

私のところに相談に来られた30代前半の消防署に勤める公務員の方の事例をお話しましょう。

消防署に勤務するAさんは同僚のMさんから不動産投資の話を聞き、Mさんが「うまく簡単に不動産投資ができるから」と言われて不動産会社の人を紹介されました。この不動産会社はいわゆる投資マンションを専門に販売している会社で、投資マンションの購入を勧められ、初めに新築のワンルームマンションを2戸契約しました。