意欲アップのカギは個としての“見られている感”

第3に、相対的に見て比較的頻繁に現れる項目である「従業員一人ひとりの能力や特性を把握する仕組みがある」「配置転換などで従業員の意思を反映する仕組みがある(自己申告など)」

「従業員の能力や技能に応じた適切な業務配分がなされている」などに注目したい。「従業員の意見や要望を受け付ける窓口がある」も含まれるかもしれない。

これらの項目に共通するのは、働く人を集団としてではなく、個として扱い、一人ひとりのニーズや能力特性などに個別に対応することを目的とした施策である点であろう。いうなれば、一人ひとりの従業員を、会社が個別に“見る”(マネジメントする)ための施策である。

私は、人材マネジメントの理想形は、個別人事だと思っている。つまり、一人ひとりの個性や適性、能力、希望などに合った人事を行う。それが最も望ましい。もちろん、多数の従業員を相手にするなかで、そんなことはとても無理だという声も聞こえよう。

でも、多くの企業で、働く人は、自分が個として扱われていないという感覚を持っており、そのことがモチベーションや意欲を阻害しているのも事実なのである。これをお読みの方は自分自身の状況を考えてみてほしい。私も、企業で働く人と話をしていると、多くが個として“見られている感”が希薄になり、集団の中に埋没しているという感覚を持っているように感じる。

こうした傾向のなかで、この結果は、それが働く人の働きがい、働きやすさ、ひいては働きたいという思いに悪影響を及ぼす可能性を示唆するのである。例えば、かつては職場におせっかいなぐらい世話好きの人などがいて、一人ひとりを見ていた。また、上司も人事部門も一人ひとりの能力や個性を把握し、それを人事上の意思決定(昇進や昇格および昇給)に結び付けようとする余裕があった。でも企業に余裕がなくなり、職場が「寒冷化」するなかで、一人ひとりを個別に把握する体制は失われつつある。このように今、日本の企業で、人材を個として扱う傾向が希薄になっているのであれば、長期的には従業員の働きがい低下や働きやすさの低下を引き起こす可能性があるのかもしれない。

今回の結果からは、働く人が働きがいと働きやすさを感じ、働きたいと思う会社は、従業員一人ひとりが、能力面や個性面で個別に“見られ”、そのなかで上司が課題解決型リーダーシップだけではなく、人材マネジメント型のリーダーシップをしっかり発揮し、さらにそのなかで仕組みを通じて、働く人の不安や心配が除去されている企業だという姿が見えてきた。優れた職場上司のリーダーシップと、個別のニーズに対応した仕組みの両方がある企業だといえよう。

当たり前のことかもしれない。でも、従業員はやはりこうした企業に価値を見出すのである。従業員価値が物を言う時代、人材管理は原則に戻る必要がある。

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