ディズニー作品の例では、原作で白人だった主役を実写版で黒人女性に変更した『リトル・マーメイド』や、有色人種を含む3人の女性を主役に迎えた『マーベルズ』などが論争を呼んだ。反発心の強い特定のネットユーザー層から反感を買っているほか、本来ディズニーがターゲット層としているファミリー層にも、施策のねらいがいまひとつ響いていないとの見方がある。
スクリーン・ラントやガーディアンなどが揃ってこうした傾向を指摘したほか、米ニュースサイトのハフポストも『マーベルズ』苦戦の理由のひとつに挙げている。
もっとも、著名レビューサイト「ロッテントマト」におけるスコアは、『リトル・マーメイド』、『マーベルズ』とも一般の観客に好評だ。
通例、作品の意義やメッセージ性に強く反応する批評家によるスコアは、両作とも60点台と低調。これに対し、娯楽性に大きく反応する傾向のある観客スコアは、それぞれ94点、83点の高水準となっている。よって、爆発力のある興収を実現できなかった要因は、必ずしも作品の内容だけではないだろう。すっかり根付いてしまったストリーミング配信での視聴習慣が、劇場への足を遠ざけているといえそうだ。
強気の値上げを続けるテーマパークとは真逆の結果に…
100年続いたディズニーの魔法がいま、徐々に輝きを失おうとしている。パンデミックのやむを得ない施策だったとはいえ、魔法の中核である大スクリーンをディズニーは安売りしてしまった。映画館で過ごす特別だった2時間に、観客がまた価値を見出す未来は訪れるだろうか。
ある米アナリストは『バラエティ』誌の取材に、「ディズニーは今でも、ほとんどのスタジオが夢見るような方法で消費者とつながっています」と、ブランドの不動の地位を強調する。米ABCやESPNなどのメディアネットワークや、テーマパーク部門などを幅広く所有する強みを生かし、グループの総合力で回復の道をたどれるか。
パンデミック中も高付加価値路線を突き進み、2021年10月に強気の値上げを実施したテーマパーク部門とは裏腹に、映画部門では製作コストを下げ鑑賞体験の安売りを推進してしまった。映画製作に関してアイガーCEOは、質より量を重視する姿勢が続いていたことを認め、ストーリー性と品質への回帰を打ち出している。
誰もが夢中になった良質なディズニー映画が、今後も子供たちに受け継がれるよう、力強い具体策が待たれる。ディズニーの歴史は、次の100年へ踏み出したばかりだ。