一方、ディズニー配給のピクサー新作『マイ・エレメント(Elemental)』は収益ラインを確保。また、人気作続編の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3(Guardians of the Galaxy Vol. 3)』は唯一といえる大成功を収めた。後者は10億ドルを射程圏に入れる8億4500万ドルと健闘したが、全体の落ち込みを相殺するには至らなかった。

『バラエティ』誌は、ディズニーの黄金期は2019年であったと指摘。長く続いたスーパーヒーロー・シリーズを大団円へ導く『アベンジャーズ/エンドゲーム(Avengers: Endgame)』や、1シーンを除き完全3DCGで名作をリメイクした『ライオン・キング(The Lion King)』を筆頭に、実に7作品もが10億ドルを突破していたと振り返る。苦戦の今年とは雲泥の差だ。

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「ディズニープラス」独占公開の落とし穴

不振連発のディズニーに、同社の方向性と戦略に対する懸念が高まっている。アナリストたちは、パンデミック中に誤った戦略を採用したことなど、複数の要因を指摘する。

ディズニーはパンデミック中、劇場への足が遠のいたことから、最新作を直ちに同社のストリーミング・サービス「ディズニープラス(Disney+)」で独占公開する戦略を採った。外出控えが何年続くとも知れなかった当時、劇場依存からの脱却は、やむを得ない方針だったともいえる。

だが、これが映画の“安売り”につながった。米調査企業のアナリストは、『バラエティ』誌に対し、映画鑑賞という体験価値の切り下げにつながったと指摘する。業界全体が「短期的思考」に走った結果、観客がストリーミングにより慣れ親しみ、大スクリーンへの関心が低下したとの分析だ。

CNBCニュースによると、ディズニーのCEOに返り咲いたボブ・アイガー氏も、おおむねこの分析を追認している。ニューヨーク・タイムズ紙主催のイベントに出席したアイガー氏は、家庭での鑑賞環境が向上していると前置きし、次のように続けた。

「そして、考えてみれば、これはお買い得です。ディズニープラスのストリーミングは、月7ドル(日本では月990円~)で視聴できます。家族全員で映画を観に行くより、ずっと安い」「だから、家から出て映画館に足を運んでもらうためには、ずいぶんとクオリティのハードルが上がったように思います」

映画館の大画面より、スマホの小さな画面で十分

パンデミック中、劇場公開のフェーズを飛ばし直接ストリーミングで配信されたディズニー作品には、2020年の実写版『ムーラン(Mulan)』などがある。所有するピクサーブランドからは、音楽教師が不思議な世界へ迷い込む2020年の『ソウルフル・ワールド(Soul)』、良い子を演じ続けた少女の身体が異変に見舞われる同年の『私ときどきレッサーパンダ(Turning Red)』、海の種族がイタリアの港町を冒険する2021年作品『あの夏のルカ(Luca)』など、良作が続々と映画館公開を断念。安価なストリーミングでの封切りという憂き目に遭った。