ディズニープラスで公開となったこうした作品の一部には、一般的な劇場作よりも質で劣るものがあったと指摘される。しかし、それを差し引いても、ディズニープラスならばわずか月7ドル払うだけで、家のリビングに集まった家族全員が見放題だ。圧倒的なコストパフォーマンスに誘導され、多くの観客は大スクリーンへ足を運ぶ意義を見失った。

一方、ヒーロー作品で人気のマーベルブランドでは、長く引っぱりすぎたストーリーが重荷となった。「アベンジャーズ」「アイアンマン」「スパイダーマン」などそうそうたるシリーズがそろい踏みするマーベル作品群は、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」と呼ばれる独自の世界観が複雑に交錯する。時間軸とキャラクター同士の関係性が作品を超えて作用し合うストーリーラインは、予想を超えた連携と深みでファンに嬉しい驚きを与えた。

パリのウォルト・ディズニー・スタジオの入り口
写真=iStock.com/Razvan
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観客の「スーパーヒーロー疲れ」も一因

その半面、スタート地点となった2008年の『アイアンマン(Iron Man)』公開から実に15年が経過したいま、肥大化したバックストーリーに観客は疲れを感じている。映画・ドラマ情報誌の米スクリーン・ラントは、宿敵との長い争いに一定の結末が描かれた2019年黄金期の『アベンジャーズ/エンドゲーム』を最後に、カジュアル層はMCUへの興味を失ったと指摘。量産されるヒーローにより、観客は「スーパーヒーロー疲れ」に苛まれていると論じている。

作品テーマの不在も問題だ。MCU作品群で「史上最もディズニーらしい」と評される『マーベルズ』だが、決して褒め言葉ではない。ディズニーのアニメーション作品で好評のミュージカルシーンをマーベル世界に持ち込んだ結果、本作には「大胆だが見当違いな一歩」との酷評も寄せられている。

本家ディズニーブランドでも、ノイズが問題だ。100周年記念の最新作『ウィッシュ』は、ファンサービスとばかりに、ディズニーが生み出したありとあらゆるアニメーション作品のオマージュを盛り込んだ。ガーディアン紙は、『ウィッシュ』は100年分のディズニー・アニメーションのイースター・エッグ(隠し要素)を織り交ぜようとした結果、テーマとなるメッセージを伝えるのに苦労する雑然とした物語になった、と不満を述べる。

娯楽作品なのにお説教臭い…ファミリー層に響かなくなった

いわゆるポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)への積極姿勢も、少なくとも興行収入の面では、現在のところ良い結果を招いていないとの批判がある。ポリコレは、差別表現や不快感のあるコンテンツを生まぬよう意図した、人種・宗教・性的指向などにおける公正な配慮を指す。