難民宿舎を作るにも国民の反対が巻き起こる
ただ、現実は、社民党の理想郷とはすでにかけ離れている。ドイツ中どこに難民宿舎を作ろうと思っても、必ず住民の反対が巻き起こるほど、難民受け入れへの反発は強まっている。2015年9月、「I love refugees!」と叫んで中東難民を迎え入れた国民はもういない。そもそもその国民を、「われわれにはやれる!」と言って熱狂させた偉大な指導者メルケル氏はとっくに引退し、姿も見せない。
また、国と州を合わせて年間500億ユーロ(7兆8000億円)を超えるといわれる移民・難民関係のコストも、国民を脅かしている。しかも、このコストには、ウクライナからの避難民の分は含まれていない。ウクライナからの避難民は、現在、111万5600人だが、彼らは入国と同時に正式な滞在許可をもらえるので、難民としてはカウントされておらず、普通の国民と同じ補助を受けられる。
普通の国民と同じ補助というのは何かというと、23年1月より始まった「市民金」。社民党の念願であった、いわゆるベーシック・インカムだ。これは、ドイツに住民登録をしていて、収入の少ない人なら、皆、もらう権利がある。
手厚い福祉を目当てにさらに増えるのではないか
現在、70.4万人のウクライナ人と、難民審査に受かって正式に滞在を認められた人のうち、50.2万人のシリア人、19.9万人のトルコ人、18.3万人のアフガニスタン人、11.5万人のイラク人が「市民金」を受けているという。
社会の連帯の象徴であるはずの市民金は、潤沢な難民支援金と並んで、世界中のさらに多くの人々をドイツに惹きつけるだろうが、こんなことが未来永劫続けられるはずはない。
本来なら、政権党である社民党が党大会において最優先で議論すべきことは、冒頭に述べた予算の問題だったはずだが、彼らは、これを極力避け、外部に向かって党の団結を強調することだけに専念していた。彼らの頭の中には「ドイツ国民」など存在しない。
平等の理念を謳い、それを錦の御旗として掲げれば、自分たちが正しいと信じる難民政策を進めて、いずれ世界を変えられると思っているわけでもないだろうが、社民党が実際にやっていることはいかにも場当たり的で、政治が現実から乖離している。
12月17日、旧東独ザクセン州のピルナという町で、無所属ながら、明確にAfDを支持する市長が誕生した。これが国民の声であり、ドイツの現実である。