ブレを許容することでおいしさを保つ

【鳥越】一方で我々はそれなりの規模に成長して、安定した供給も求められる立場にあります。第三工場のようにロボットも導入して、木綿や絹のようなベーシックな商品では味と量を両立させています。

相模屋第三工場木綿製造ライン
写真提供=相模屋食料
相模屋第三工場木綿製造ライン

一方で、ひとり鍋シリーズのような商品は、要所要所で手作りの、人間のアナログな感覚を残す作り方で、おいしさを保つ工夫をしています。

これもで話しましたけれど、相模屋が得意なのは、「人の感覚」を生かした、自動化に頼り切らない形で安定供給を実現することです。ひとり鍋シリーズはあえて完全自動化に行かずに、いまだに手作業の工程が多い。アナログの作業にはブレもありますが、商品の味のレベルを高く保つにはそのほうがいいと思うんですね。ブレても高いレベルでのブレなんです。

これは私見ですけれど、自動化を突き詰めていくと、味は、やはりどこかで妥協が必要になります。作る側の意識も、効率を意識するとどうしても「おとうふ」をつくるのではなくて、「白い塊」(前回参照)をつくる、というふうに変質していくんじゃないでしょうか。

味のためにはこれ以上の効率化は出来ない、という一線を守ることが、「おとうふのおいしさ」の実現には必要で、それがご好評をいただいている理由だと思います。

元気でいるために「完璧」を目指さない

――鳥越さんのように、日本のビジネスマンが元気になるために、経営者はどのようなことに注意するといいでしょうか?

【鳥越】私たちがやってきたことは、たまたま、おとうふだからできることだと思うんです。他の業界にはその業界の常識がありますので、同じところもあるかもしれませんけれども、当然ながら、そうじゃないところも多いと思います。

その上でですが、昔は「人と同じことがいい」というふうに言われていて、その次に「人と同じことを前提として、ちょっとだけ違うもの」というのがあって、今は「人と同じではないもの」が脚光を浴びるようになってきた、と、私は思っています。その流れに完全に乗り遅れたのが、わが豆腐業界なのですが。ですので、全国各地のおとうふをつくっているメーカーで、経営が厳しくなったところを支援して、その土地に根付いた特徴のあるおとうふを再生し、全国に広げていきたいと考えているわけです。

ちょうど、地酒のようなイメージで考えていただくといいかもしれません。大手メーカーが市場を握り、日本酒なんてどれも大差ない、と思っていたところに、地方の個性的な酒造会社が評価され、中には世界に出ていくところも現れた。あれと同じ構図が、おとうふにもあると思っています。

そんなのは幻想だと思われるかもしれません。市場調査とか、マーケティングとか、数字的な裏付けがあって始めたことでもありません。我々がやっていることはほぼすべて「こういうことではないか、面白い」と気がついたところから始まっています。今の姿が見えていたわけでもありません。

そういう、ある意味無責任な思い付きはきっと誰にでもあると思うんです。元気ということを視点におくなら、そうですね、きっと「完全」「完璧」を最初から目指しすぎて、ハードルが高くなって元気が出ないんじゃないでしょうか。