60歳からの40年間こそ、自分らしく生きるための大切な時間

いちばん思うのは60歳になっても自分は自分だということです。夢を果たした人も夢破れた人もいるでしょうが、とりあえず生活者としての自分がいて、悲しいこともうれしいことも経験して自分がいます。

60歳までの40年間は、人間にとっていちばん忙しい時期です。仕事に恋愛、結婚、子育てというイベントの多い時期です。そのために、あっという間の40年と感じるのだといわれます。「子育てしているうちに50歳も過ぎてしまった」という女性も多くいます。

現代は出産年齢もどんどん高くなっています。35歳で子を産んだら、子が20歳のときに自分は55歳です。子が大学へ行くのなら、学費を出してあげるため親は働き続けて、自分のことより子を優先するでしょう。

「やっとひと段落と思ったら、定年が近くなった。私の人生はなんだったのだろう」と、子どもが家を出たあとの虚脱感は男女を問わず、みなさんが持つものだと思っています。60歳までの40年間はまさに激動、起伏の多い時期だったのです。

それにくらべて、60歳から100歳までの40年は、特別なイベントも少なくなり、のんべんだらりと長い年月を過ごすのではと否定的に考える人もいるようです。

「やることも役割もなく、毎日ボーッと過ごすだけなのか」と考えてしまえば、40年はいかにも長いです。

それは間違いです。高齢になるというのは生活そのものがイベント化していくのです。ちょっとしたことにつまずき、ちょっとしたことに笑い、ささやかな幸福感に満たされたり、誰かを見送っては泣く。

そんな生活をしているうちに、うかうかすると100歳近くなっていたというのが経験者の感想です。そして、60歳から100歳の40年間こそ、自分が自分であるために最適で最後の時間なのです。

もうあとはありません。大いに楽しんでうかうかと100歳になってほしいと思います。

80代でアプリを開発した若宮正子さん

81歳でスマホアプリを開発したと話題の若宮正子さんのことは、みなさんもご存じだと思います。

現在は、デジタル庁の有識者会議のメンバーになり、園遊会には自作の「エクセル・アート」でデザインした服やバッグを身につけて参加されるという大活躍をなさっています。若宮さんの好奇心旺盛な態度は、本書の後ろの章で説明しますが、彼女の成功は80代で一夜にしてなったわけではありません。

自宅でラップトップを使用して働くシニア女性
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです

若宮さんがパソコンを購入したのは60歳のときです。まだまだパソコンの値段も高く、いまのような充実したネット空間もありません。それでもパソコン通信を使って外の人たちと交流を始めました。パソコン購入時は、お店に通って店員さんに使い方を教わったとのことです。まだシニア向けのパソコン教室もほとんどない時代でした。

ブログやフェイスブックなどのSNSもない時代でしたから、自力でホームページをつくり、自分の旅行の記録などを載せていきました。65歳からは、シニア向けのパソコン教室の講師を引き受け、「エクセル・アート」といって、エクセルに興味がない人に興味を持ってもらうためにエクセルを使ってデザインをし、ネットで発表することを続けていました。

その作品がマイクロソフトの担当者の目に留まって「TED×Tokyo」(TEDとは、テクノロジー、エンターテインメント、デザインの頭文字です。それぞれの分野で活躍する人が自分の活動や夢をプレゼンテーションします。世界各地で大学と提携して取り組まれています)でのスピーチにもつながったということです。