なぜ母親たちは「お弁父」を求めるのか
女性向けファッション&ライフスタイル雑誌『VERY』のウェブサイトは、今年4月、「パパが作る『お弁父』続けるための4カ条とは?」と題した記事を掲載した。
著名な料理家・平野レミ氏の息子であり「準食学士」を肩書きとする和田率さんが教える4つのコツを紹介している。「これさえあれば安心の鉄板コンビをおさえておく」をはじめとする4項目は、読む人によって難易度が違う。
注目したいのは、この記事が、主に女性を読者とするサイトに掲載されているところである。
「お弁父」という名付けからも、和田氏は「父親が作る」点に意義を見出している。お弁当は母親が作るもの、という固定観念を想定して、それをひっくり返そうとした。
そうであれば、わざわざ女性向けの記事が取り上げる必要はないし、ターゲットが異なる。「父」が作るのなら、「母」である女性には縁がないはずである。
女性に読まれると想定して載せたのは、女性にとってこそ「お弁父」が求められているからではないか。今もなお、いや、今は根強く、「お弁当」は母親が作るものとの思い込みがあるために、この記事が求められているのではないか。
そこには2つの理由がある。
手軽なのに、子供から高く評価される
ひとつは、単純に、お弁当を作ってくれる「父」を求めているからである。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、家事の分担割合は、「妻80.6%、夫19.4%」と大きく開いている。
特に「炊事」の頻度は、「毎日・毎回」が妻86.5%に対して、夫はわずか6.6%である。しかも、「炊事をまったくしない」と答えた夫は50.4%に達する。夫の残り半数のうち、「月1~2回」が19.0%、「週に1~2回」が17.5%だから、90%近い夫は、ほぼ何も炊事をしていない、と言って良い。
個人的な事情でお恥ずかしいのだが、私は、料理が好きで炊事をほぼ担っており、世間とは正反対であるものの、それはここでは置こう。
世の中の多くの「妻」にとって、「お弁父」は、ほとんど夢の世界に近い。いつか、どこかで「お弁父」が現れたら少しは楽になるのかもしれない。儚い願いが、先にあげた記事の背景にある。
「お弁父」が女性誌で紹介される、もうひとつの理由は、母親のヒントになるからである。
普段は料理をほとんどしない割合が極めて高い父親が、お弁当を作る。そのときに参考になるように考えられているのが「お弁父」である。
つまり、難しくなく、でも、美味しく、そして、父親らしい「イタズラ心」を見せるためのものである。
手軽なのに、子どもから高く評価される。ここに女性雑誌が、すなわち「母」が「お弁父」を求める理由がある。
性別の違いではなく、できるだけ負担を軽くしつつ、でも、栄養バランスと見た目を保ちたい。欲張りかもしれないが、しかし、母親は、いつも、お弁当作りで要求されているのではないか。