帝国崩壊から1500年後にわかったこと

私自身は古代DNA(aDNA)解析という技術が頭に浮かぶ。極めて高感度の配列解析装置、DNA汚染を回避するための厳格な措置および強力な計算プログラムのおかげで、古い考古学発見物の遺伝子の内容をつなぎ合わせることができる技術だ。

2010年にはネアンデルタール人のゲノムが解明されたが、先史時代のものでも充分な試料が入手できれば、どの微生物がどの疫病を引き起こしたのかを解明することができるのだ。

とりわけ歯はaDNAを抽出するのに適していて、状態の良いDNAを豊富に供給してくれる。それ自体は不思議なことではない。歯を構成する物質はDNAなどの生体分子を硬い殻に埋め込み、その分解を遅らせるからだ。

ファルシッド・ジャラルヴァンド『サルと哲学者』(新潮社)
ファルシッド・ジャラルヴァンド『サルと哲学者』(新潮社)

2013年にドイツ南部の集団墓地から発掘されたペスト犠牲者19人の歯を分析したところ、そのうち8人からペスト菌特有のDNA配列が検出された。

他の日和見感染症の病原体と同様にこの微生物の無症候性キャリアはいないので、ユスティニアヌスのペストがやはり腺ペストのパンデミックだったという強力な裏づけになった。これで歴史家たちにとっては議論すべき問題が一つは減った。長く議論を醸してきたローマ帝国崩壊の要因となったマイクロヴィランが特定されたのだ。

この研究を行った研究者たちはさらなる分析を行った。DNAの断片をペスト菌に属する他の既知のDNA配列と比較することで、この細菌の起源をたどる系統樹を作成したのだ。それにより、ペスト菌が中央アジアからやってきたことが特定された。

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