2人に1人が死亡した病

スーパーヒーローが活躍する2018年の映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、悪役サノスが魔法の石を奪い、全宇宙の生命体の半分をランダムに消し去ろうとする。

持続可能な範囲を超えて人口が増加したせいで均衡が失われたと考え、その均衡を回復させようとしたのだ。生き残った人々の生活は良くなるという言い分により、大量殺戮をイデオロギーとして正当化している。資源や空間を巡って競り合うことなく、繁栄と平和を享受できるというわけだ。

ほんの数百年前に地球でもほぼ同じようなことが起きていて、この映画もそれにインスピレーションを受けたのかと思う人もいるだろう。その時の殺戮者はもちろん、紫色のスーパーヴィラン、サノスではなく、小さなスーパーヴィラン、エルシニア・ペスティス──つまりペスト菌だった。

1347年から1351年にかけてユーラシア大陸で黒死病が猛威を振るい、大陸の人口が大幅に減少した。このパンデミックによりスウェーデンでは2人に1人が死亡したと推定されており、ペストに襲われた他の国もおそらく同じような状況だった。

腺ペストは恐ろしい病気だ。うつるきっかけはノミに咬まれることだが、それ自体は中世に生きた人々なら気にも留めないようなことだ。しかし数日後には高熱、頭痛、そしてリンパ節の重度の腫れ、膿瘍が発生する。

古代ローマの遺跡
写真=iStock.com/CJ_Romas
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ローマ帝国で起きたパンデミック

細菌はさらに血流に侵入し、敗血症や壊死を引き起こす。内出血のせいで皮膚が黒くなるのが、黒死病の名前の由来になった。腺ペストの死亡率は50%超だが、もともと飢餓に苦しんでいたり、基礎疾患を抱えていたり、高齢だったりした場合にはそれをはるかに上回っただろう。

エルシニア・ペスティスは腺ペスト以外にも肺ペストと呼ばれる病気を引き起こす。特に凶暴で急速に進行する感染症で、肺炎を引き起こし、ほぼ100%の死亡率だ。肺ペストはノミなどを媒介せず、人間同士で直接感染するが、患者は通常、多くの人に感染させる暇はない。最初の症状が出てから2日も経たずに死ぬのだから。

すでに述べたように、エルシニア・ペスティスは中世のペスト流行の原因になっただけでなく、古代で最も激しいパンデミックも引き起こした。それが6世紀のユスティニアヌスのペストで、ハーパーはそれがローマ帝国崩壊に大きく影響したと考えている。

パンデミックを引き起こしたのがその細菌だとわかった理由は、古微生物学(先史時代の微生物の研究)のおかげだ。その分野は近年の技術開発により飛躍的に発展した。