頭と首の境界線はのどもとではなく耳・鼻の高さ
ところで、「頭」と「首」の境界線はどこにあると思いますか?
おそらく多くの方は、「のどもと」だと考えているでしょう。一般的には、タートルネックのえりの上端が、ちょうど頭と首を分ける境界線とされているのではないかと思います。
ところが、医学的・解剖学的には、それは間違っています。「頭」と「首」の境界線はもっと上、耳のあたり。両耳の穴と鼻の頭を結んだライン、なのです! 頭の骨(頭蓋骨)と、一番上の首の骨が、そこで接しています。頭というものは、思っているよりも小さく、かなりの割合は首に属することになります。
頭の骨は動きませんが、首の骨は連続体なので、動きます。そして、ボウリング球ほどの重さがある頭をちょこんと乗せ、ヨヨヨっとわずかにゆらぎながらバランスをとっているのです。もし首の骨が動かなかったら、頭がこぼれないよう筋肉で固定しておかなければならないから大変です。
「頭」と「首」の境界線を知ると、頭が背骨の上に乗っかってきます。首の筋肉は自由になり、やわらかさを取り戻すことができるのです。
「首を長く伸ばす」とは「頭を持ち上げる」ではない
首は長く自由でいられると、とても快適です。このときに、「首を長くしよう!」と、気合いを入れて頑張ってはいけません。
そういう力みがあるとき、頭がどんな感じに動くか観察してみてください。おそらく、首を反らしてあごや胸を突き出しているのではないでしょうか?
しかしそれでは、重い頭が後ろにこぼれて、首が縮んで背骨がうまく動かなくなってしまいます。その気合いや意気込み自体は、素晴らしいものです。でもここではそれをすべて脇に置いておいてください。
「首を長く自由に」するためのポイントは、「方向」です。図表5のように「頭が上へ前へ」いく、「逆Cの曲線」をイメージしてください。すると、背骨の上に頭がふわっと乗っかっていく感覚がわかると思います。頭をぐいっと持ち上げてはいけないのです。
頭が背骨に支えられると、首の筋肉は頑張らなくてよいので、こわばりをほどくことができます。これが、全身を心地よく使うのに必須の「頭が背骨に乗っかっていく」方向なのです。
定期的に頭の重さの扱い方を思い出して姿勢を見直す
これらを確認していくと、Aさんは「あら? 頭が重くないし、肩がラクだわ」と言って、その日は笑顔で帰ったのです。
その後3カ月ほど経った頃、Aさんは階段で息切れしなくなっていることに気づきました。医者に相談したところ、降圧剤をいったんやめて様子を見ることになりました。
それはAさんにとって、私が想像するよりも胸が晴れたことでした。「薬を一生飲まなければいけない」というのは、もう健康になれませんよ、という烙印を押されたように感じていたようでした。
その後Aさんの血圧は安定していて、薬いらずで元気に生活しています。今でも、頭の重さをどう扱うかを思い出しては、姿勢を見直すそうです。
何らかの不調を抱えたときに、医者にかかることはとても大切です。しかし同時に、「筋肉の慢性的な緊張」も、原因のひとつなのでは? という視点も持っておいていただけると嬉しいです。