組織が個人の活動を支援する「インフラ型組織」
それに対してインフラ型組織では、個人が主体となり直接、市場や顧客と対峙する。メンバーどうしの関係は基本的にフラットであり、組織は個人の活動を支援することに重点が置かれる。たとえるなら舞台の上で俳優が演技をするイメージである。
シリコンバレーにかぎらず国内外のIT系企業、スタートアップ、それに営業やサービスといった業種の一部では事実上、インフラ型に近い組織が少なくない。大企業でも顧客に接する現場を上にした、逆ピラミッドの組織図を掲げるところがしばしば見かけられるようになったが、これらも理念としてはインフラ型に近い。
多くのケースに共通するのは、意識してインフラ型の組織を設計したわけではなく、仕事がしやすい環境づくりをめざして試行錯誤した結果、このような組織になったということだ。
暗黙のうちに「自営型」を理想としてイメージしている
企業側も働く人の側も、暗黙のうちに理想的な働き方として自営型をイメージしているのである。そして社員一人ひとりにまとまった仕事を任せたら受け身の姿勢が見違えるほど積極的になったとか、若手が会社を辞めなくなったという経験をたびたびしている。にもかかわらずメンバーシップ型かジョブ型かという既成概念に縛られているので、あるいはそれしか知らないので、自営型という働き方が意識されないだけなのである。たとえていうなら「甘い」と「辛い」しか知らない幼児が酸っぱいブドウを口にしても、「甘い」か「辛い」かでしか表現できないようなものだ。
私はここ20年来、国内各地、それに海外20カ国以上の国・地域を訪ね人々の働き方を調査してきた。そこでわかったのは、アメリカのシリコンバレーのような時代の先端を行く地域から、イタリア、台湾、中国などの伝統的な国・地域の職場にまで、自営型が広がってきていることだ。そしてわが国でも情報・ソフト系の企業から、製造業、建設業、サービス業、流通業まで多様な業種の現場に、自営型が浸透しつつある実態が明らかになった。しかもIT化とグローバル化、そして新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、自営型の普及がいちだんと加速している。なかにはそれをジョブ型の広がりととらえる向きもあるが、実態は明らかに自営型なのだ。