「小売業者にとって、中内さんは一つの目標だった」

「中内さんはいろんな言葉を残されましたけれども、その中でいちばん有名なのが『よい品をどんどん安く』という言葉です。この言葉は小売業の永遠のモットーなのではないかと思います。小売業者にとって、中内さんは一つの目標だったわけです。次に中内さんがどんなことをされるのかということが、すべての小売業者の興味の的だったと思います」

笹井清範『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学』(プレジデント社)
笹井清範『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学』(プレジデント社)

中内と柳井。ともに倉本の教えを実践する同志であった。さらに、「服を変え、常識を変え、社会を変えていく」というファーストリテイリングの理念に見られるように、柳井もまた「商人」であることをめざしている。

では、中内は何を残したのか。その一つに「流通科学大学」がある。中内は流通科学大学創設の想いを次のように述べている。

「かえりみれば、かつての戦争は資源の取り合いが大きな要因となっていました。第一次大戦は石炭、第二次大戦は石油。私たちは、悲惨な戦争を三度と起こさない仕組みを、新しい世紀に向かって考えていかなければなりません。流通を通して、人、もの、情報を交換し、互いに理解しあえば、戦争なんて手段はとれなくなります。流通科学大学は、開かれた大学として、また科学としての流通を、解明していこうと考えた結論です」

倉本長治の教えはイオンを創った男にも

こうして1988年春に流通科学大学は兵庫県神戸市に開学。かつてこの地には、坂本龍馬が塾頭を務めた神戸海軍操練所があった。武家社会では卑しまれていた「利」を評価し、経済的な利益こそが社会を動かすことを熟知した志士であった。「もうからぬ商売を恥じよ」という倉本の言葉を愛した中内が、神戸を選んだ理由かもしれない。

こうした中内の志は、じつはもう一人の男によっても引き継がれている。倉本が熱弁をふるって商人に道を説いた「商業界ゼミナール」で若い頃に席を並べて学びあった友、イオンの男、岡田卓也である。中内の死後、イオンはダイエー再建に取り組み、2014年には子会社としたことは記憶に新しい。

同じく倉本の弟子の一人、岡田卓也の物語については次回へ譲ろう。

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