「エアコン代は俺が払った」vs「旅行代は私が出した」
「本当は僕だってiDeCoもつみたてNISAも上限いっぱいやりたい。自分名義の資産が増えていくのをこの目で見てみたい。だけど今は普段の生活費に加えて、エアコンが壊れた時の買い替え代も全部僕の負担になっているから、身動きが取れないんだ。ユリばかり資産を増やしていって、不公平だよ」
iDeCoの名義が夫であろうが妻であろうが、結婚後に生じた資産は夫婦の共有財産とも言えますが、受け取りは名義人に限られます。離婚時の年金分割の対象でもありません。
離婚時のiDeCoの取り扱いは微妙なところがあり、小柳さんご夫婦の年齢では、財産分与の対象になりうるのは婚姻期間中の掛け金額で、もし、受給開始が近い年齢で、受給額が見えてくるなら、財産分与の対象になる可能性もあることとなります。それを知ってか知らずか、ユリさんが夫に反論しました。
「でもさ、この間の旅行代は私が出したよね? それに子供の冬服だって私の収入から出したよ。最近私の方が出すこと、増えてない? 私の収入は不安定なの。できれば使わず貯めていきたいの。どうしてわかってくれないの!」
夫婦は目の前で言い合いを始め、空気が悪くなりました。支出一つひとつに「どっちが出すか」問題が勃発していて、それが鬱積しているように映りました。実は、こうした問題を抱えている共稼ぎ夫婦は少なくありません。私の印象では、若いDINKs世帯ほどこのような傾向が強いのですが、多くは子供の出産、住宅購入などライフステージを経るごとに財布が一つになり「どっちが出すか」問題は収束していくものです。
一方、小柳家の場合、出産や住宅購入などの節目はあっても、そのタイミングでユリさんの収入がなかったために、財布を一つにする機会は持てませんでした。
また、二馬力になった時点、あるいはユリさんの収入が夫並みに増えてきたタイミングでも、一元管理に向けてひざを突き合わせて話し合うことはありませんでした。ユリさんは、時々夫の収入を超えてしまうことが、夫の気分を害するのではないかと変に遠慮して、収入を公開できなかったようです。タカシさんもユリさんがどれだけ稼いでいるのか気になりつつも口に出せなかった。互いに遠慮やうしろめたさを抱きながら、月日が流れ、いつ間にか「自分で稼いだお金は自分のもの」という意識が強くなっていったようです。
ただ、婚姻期間中に得た勤労収入はあくまでも夫婦の共有財産。まずは収入と支出を共有し、「家の支出は夫婦の収入から出す」という意識を育ててもらうことにしました。