彼の家族たち
片桐蘭子さん(仮名・50代)は37歳で離婚し、その2年後に交際を始めた。相手は同い年のIT系企業に勤める男性で、両親のほかに6歳上の姉、5歳上の兄がいた。
片桐さんはすでに結婚を申し込まれていたが、なぜか絶望の淵に追い込まれることになる。その原因となる彼の家族の面々だが、そのプロフィールを簡単に紹介しよう。
彼の父親は、結婚当初から転職を繰り返していたために収入が不安定で、父方の実家の離れで暮らしていた。家計を支えるために母親は、姉と兄を祖父母(母親にとっての義両親)に預けて工場で働いていたが、嫁姑の仲は良くなく、父方の親族たちとの関係も悪かった。
彼が生まれる直前には、父親が祖父母や親戚たちから定職に就かないことを咎められ、激しい口論になり、実家の離れを出ることに。
そのため、近くに親戚たちがたくさん住んでいるにもかかわらず、冠婚葬祭以外の交流が途絶える“村八分状態”になっていた。
父親の会社経営が安定してきた頃、末っ子の彼が生まれた。関係が断絶していたため義両親に子どもを預けられない母親は、専業主婦になり息子の世話に専念した。
彼の父親は、高校時代に大病を患い、大学に進学できなかったため、「息子たちはいい大学に行かせよう」と教育熱心だった。その甲斐あって兄も彼も地域で1〜2番を争う進学校に進み、有名大学に進学したため、近所では羨望のまなざしを向けられていたようだ。
ただ、昔の男性にありがちな男尊女卑の考え方から、「女は大学に行かなくていい。実家から通えるところで働け」と言い、姉は強く反発。母親を味方につけ、一浪して県外の大学に進学した。
やがて父親は、彼が30歳の頃に70代で他界。血液のがんだった。
彼の母親は、幼い頃に戦争で両親を亡くしている。そのせいか、家族への執着が強かった。子どもたちに自分の要望を察するように仕向け、自分の思い通りにいかないと執拗に責めることで支配した。自分より格上だと感じた相手へは愛想良く接するが、格下だと感じた相手へはマウントをとるため、“村八分状態”になる前から近所や親戚との付き合いでトラブルが絶えなかった。
一方、彼の姉は、母親の影響を強く受けている上、男尊女卑思想を持つ父親との衝突が絶えなかった。気に入らないことがあると家出し、「縁を切る!」と脅して家族をコントロールしてきた。プライドが高く自分が一番でないと気がすまない性格で、家族の反対を押し切って結婚し、息子を産んでまもなく別居。元夫はすんなり離婚に応じたが、自分の要求を通すため離婚裁判にまで持ち込んだ。現在は大学生の息子と2人で暮らしている。
彼の兄は出版系企業で営業をしており、30代で結婚して大学生の子どもがいる。日和見で事なかれ主義が過ぎる性格のため、結婚後、妻を姑と小姑の嫁いびりからかばうこともなく、2年前から兄嫁は義実家との接触を一切拒否。見栄っ張りで金銭的にだらしがなく、兄嫁に隠れて借金をしては、バレて兄嫁に助けてもらうことを繰り返している。
末っ子の彼については、片桐さんはこう話す。
「私はどちらかといえば楽天的でのんびりマイペースですが、彼は繊細な性格で、アイマスクや耳栓をしないと眠れないようなタイプ。先のことに備えておくことが得意で、冷静に周りを見て判断できる人なのですが、なぜか自分の母や姉に対しては、激昂しやすかったり、簡単に言いくるめられたりしてしまっていたのが不思議でした」