「業界外」を巻き込む力が求められる
一方の三木谷社長は、「一般を巻き込む」という点では「さすが」だ。Xの投稿でNTT法の廃止を「携帯含め、高騰していた通信費がせっかく下がったのに逆方向に行く最悪の愚策」と痛烈に批判している。「業界外」を巻き込む観点をしっかりと盛り込んでいる。
だが三木谷社長の広報戦での勝利が約束されているかというと、そうとも言い切れない。というのも、三木谷社長への好感度がかなり低いからだ。
この夏、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』という書籍が出版された。決して三木谷社長に否定的な内容ではないのだが、「なぜ嫌われるのか」というタイトルが成り立つほど、好感度が低いことの証しだ。
SNS時代の広報戦では「業界外の人々を巻き込む言語化力」が極めて強く求められる。記者のように「自分なりに理解できるまで、粘り強く情報収集してくれない」からだ。勝負は一瞬、そして一言で決するとも言える。
もし私が広報PRのコンサルタントとしてNTT側に立つのであれば、改めて「一般の人々を巻き込む理論武装と平易な言語化」に取り組んだうえで、「巨万の富」を築いたカリスマ社長に対抗するために「アカウントの中の人」の「等身大の誠実さ」、あるいは「現場の人々の通信インフラを維持するための愚直な取り組み」を打ち出すかもしれない。逆に楽天陣営に立つなら、三木谷社長の「志の高さ」を伝えるための起業家像の再構築を試みるだろう。
いずれにしても勝負は「論理的に正しいかどうか」ではなく、通信業界「外」の人々の共感と支持を得られるか、だ。業界「外」の共感と支持を得るには、事業者の私利私欲ではなく、この国の通信業界を良くしたいという「高い志」をリアリティのあるものとして、伝えられるかどうか。NTT法をめぐる勝敗の帰趨は、その一点に集約されるのではないか。