広末涼子さんの不倫報道を受けて、夫のキャンドル・ジュンさんは、記者と一対一になる「対談形式」の記者会見を開いた。この形式はこれから定着するのだろうか。PR戦略コンサルタントの下矢一良さんは「『対談形式』を有効活用できる状況は極めて限られている。普通の企業が参考にできるものではない」という――。
会見場の机にズラリと並んだマイク
写真=iStock.com/RichLegg
※写真はイメージです

キャンドル・ジュンの会見スタイルは異例

不倫を報じられた広末涼子氏の夫で、キャンドルアーティストのキャンドル・ジュン氏が記者会見を開いたが、その形式は極めて異例のものだった。

「私はその方(質問者)に向き合って答えたい」。そんなキャンドル・ジュン氏の要望で、自分の横に記者を呼ぶ「対談形式」で質問に答えたのだ。私はかつては記者として、現在は中小・ベンチャー企業のPRを支援する立場として、500を超える記者会見に出席してきたが、このような「対談形式」を目にしたのは初めてだ。

この、かつてないスタイルの記者会見が多くの称賛を集めている。「記者もカメラの前に出し、質問の責任を取らせた」「記者の匿名性を排除している」「『出てこいや』という気概を感じる」など、普段からのマスコミの報道姿勢に対する反発と相まって、肯定的な声が多いようだ。

では、この新たな形式は「会見で記者の質問に答える当事者」にとって、果たして「得」になるものなのか。「新たな記者会見のスタンダード」になりうるものなのか。私自身の記者経験を基に、PR戦略コンサルタントという実務家の立場から分析していきたい。

記者からの初歩的な質問を抑制できる

「対談形式」を取ることによって、どのような質問を封じることができるのか。筆頭は、「そんな基本的なことを改めて聞くのか」という初歩的な質問の抑止効果だろう。

新製品の発表会見を例に考えてみたい。発表会見が1時間だとすると、一般的には開始から40分程度で社長や開発者が新製品を紹介し、残りの20分が質疑応答に充てられる。

質疑応答の場で必ず現れるのが「登壇者がさっきまで説明していたこと」を確認する記者だ。「新製品の基本性能」など配布資料を見れば分かることまで、なぜか改めて質問するのだ。

大概は「登壇者の説明不足」や「資料のわかりにくさ」というよりも、記者の「単なる聞き逃し」や「理解しようという姿勢の欠如」であることが多い。あるいは「会見後に広報に改めて確認するのが面倒なので、その場で社長に聞いてしまおう」という、記者の厚かましさに起因する場合もある。

通常の会見スタイルであれば「大勢の記者のひとり」という気軽さから、こうした「初歩的な質問」も聞けてしまう。しかし「対談方式」であれば、さすがに相当に図々しい記者であっても、わざわざ質問しようとは思わないだろう。