SNSの普及で広報戦のあり方は激変した

さて、今回の楽天の三木谷浩史社長と、NTTの全面対決に話を戻したい。孫正義社長がNTTに喧嘩を売った時代と現在とでは、若干事情が異なる。当時、SNSはほとんど普及していなかった点だ。戦いの場は自ずとテレビや新聞、経済誌などのメディアが中心となる。

スマートフォンに表示された各SNSアイコン
写真=iStock.com/Kenneth Cheung
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既存の報道メディアでは「企業間の利害が分かれる問題で、どちらか一方の主張をそのまま垂れ流す」ということはまずありえない。扱い方の濃淡はあれど、「両論併記」を維持するものだ。前述の孫社長の「NTTは日本のネットユーザーの敵」発言の際も、NTTの見解はソフトバンクに比べ小さいながらも扱った。かつてのNTTのように「紳士的な」対応をしていても、ある程度は自社の主張が取り扱われるのだ。

だが、今回の主戦場はXである。既存メディアのように「両論併記」という配慮は存在せず、敗者には何も与えられない世界でもある。それだけに戦いに際しては、既存メディア「だけ」が主戦場だった時代よりも、入念な広報戦略が必要になってくる。勝つためには何が必要なのだろうか。

NTTの主張は確かに事実だが…

NTTの反論投稿では「KDDが電電公社から分離した際、電電公社の資産を引き継いでいます」「ソフトバンクも元々の母体である日本テレコムが国鉄から分割された際、国鉄の通信資産を受け継いでいます」として、NTTだけが国有財産を受け継いでいるわけではないと主張しているほか、「光ファイバーはほぼ全て公社ではなく民営化後に敷設しています」と反論している。

NTTの主張は確かに事実だが、広報戦を勝ち抜くには弱い。というのは「通信業界以外の者には、どうでも良い話」だからだ。前述の孫社長の戦い方が巧みだったのは「通信料金が高いのは、NTTのせい」と通信業界「以外」の人々を味方にしようとする仕掛けがあったことだ。

NTTが広報戦を勝ち抜くには「NTT法によって、いかに日本の通信業界の技術発展や国際競争力の向上が阻害されてきたか」など、「業界外」を巻き込む議論に昇華することが不可欠だ。