小泉総理の「構造改革」が支持された理由

では、「広く支持されるトップ」は「何を」変えると打ち出すべきなのか。広く支持されるためには、「誰も反対しない変化」を訴えなくてはならない。世論が二分されるような変革では、不支持も半分は生じることになる。つまり、広い支持は得られないのだ。

当時、小泉総理は「構造改革」を打ち出した。小泉総理の就任時は、日本はバブル経済が崩壊した1990年代初頭からの「失われた10年」の真っ只中で、長期不況が続いていた。日本の「構造改革」が必要なことは誰の目にも明らかだった。

ぶら下がり取材を受ける小泉純一郎首相
ぶら下がり取材を受ける小泉純一郎首相(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

とはいえ「構造改革」の必要性には誰もが同意するだろうが、そのイメージする具体的中身は各々、異なる。ある者は「規制緩和を推進して、民間企業の活力を存分に引き出す構造改革」を連想し、別の者は「財界からの政治献金を制限するなど、金権的な自民党の体質の構造改革」だと思うかもしれない。具体論に踏み込みすぎず、「構造改革」という抽象度の高い「旗」だからこそ、多くの支持が得られるのだ。

「美しい国、日本」に足りなかったもの

掲げる「旗」として、もうひとつ重要なポイントは「相手が自分ゴトとして捉えられるか」ということだ。

わずか1年で崩壊した第1次安倍内閣は「美しい国、日本」を「旗」として掲げていた。確かに各々が想定する姿は異なっても、日本が「美しい国」になることに反対する者はいないだろう。とはいえ、仮に日本が美しくなったとしても、私たちの生活に何か直接のメリットが生まれるわけではない。

小泉総理の「構造改革」が長きにわたって多くの支持を得られたのは、「構造改革で日本の経済が良くなれば、『私たちの』生活も良くなるに違いない」という期待を抱くことができるからだ。つまり、受け取る側が「自分ゴト」として捉えることができる「旗」なのだ。

さて、岸田総理も就任当初は「新しい資本主義」という「旗」を掲げていた。自民党のサイトによると「新しい資本主義」とは「新自由主義的な資本主義によって、行き過ぎた部分を是正していく」ことだという。いわば「小泉改革」的な構造改革路線の対極を行くものだ。