日本の領土や権益が他国に剝ぎ取られてしまった

だが、当時のポルトガルやスペインには日本を植民地にするような力などまったくなく、キリシタン大名たちも豊臣や徳川の天下に刃向かいなどしていなかった。鎖国しなかったら植民地化されたなどというのは、世界史に対する無知の極みだ。

私が不思議なのは、いわゆる保守派の方の中に「平和憲法を守り専守防衛に徹しておとなしくしていれば安全だ」という意見には反対するのに、「鎖国は良かった」という人が多いことだ。こういう人たちは、鎖国していたからこそ、ロシアにカムチャッカ、樺太や千島を取られたことをどう考えるのだろうか。

平和主義は、自らが愚かな戦争を起こさない歯止めにはなるが、他国が日本に反撃されることを恐れずに、都合の良いように周辺の状況をどんどん作り替え、日本の領土や権益を少しずつ剝ぎ取ることを許すという点において、鎖国と共通する。

鎖国によって、日本の狭い意味での領土は維持されたが、北方ではロシアの進出を許し、紛争を恐れて鬱陵島を李氏朝鮮に譲り、他国が植民地経営や移民などの形で無主の土地を手に入れて勢力を拡大していた時期に、日本は蚊帳の外になってしまった。

近代の日本の戦争は、その結果生じた、無防備な防衛ラインを強化し、人口過剰のはけ口を求めて遅れを挽回するためにやや無理を強いられた結果なのである。その点においても、江戸幕府の鎖国政策は、現代にいたるまでわが国に途方もない悪影響をもたらしたと言えるだろう。

※本記事の内容については、『民族と国家の5000年史 文明の盛衰と戦略的思考がわかる』 (扶桑社BOOKS)も参照

【関連記事】
日本は「医師しかできない仕事」が多すぎる…医療不足と若手医師の過労死をもたらす根本問題
日本に対する「海外からの反応」は驚くほど変わってしまった…岸田首相と安倍元首相の「決定的な違い」
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
中国の水産物のほうがよっぽど危ない…日本食レストランに並び、スーパーで寿司を買う"香港人のホンネ"
暴走する秀吉を誰も止められなかった…名だたる武将が出兵する中、なぜ家康は朝鮮出兵を回避できたのか