「おしっこがしたい!」欲はどこから来るか

膀胱・おしっこ関連でもうひとつご紹介しましょう。人間の基本的な感覚には、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚の五感があります。一方で、「おしっこがしたい」と感じる尿意というのは、そのどれにも当てはまらず、第六感(?)というのかもしれません。

膀胱がいっぱいになると尿意を感じ、排尿中には膀胱の中身が減っていくのを感じますが、この臓器の伸び縮みを感じる感覚というのは、これまでよくわかっていませんでした。こうした感覚――つまり体内の力学的な刺激を感知する機能が、私たちの身体に備わっていることが最近明らかになりました。「メカノセンサー」と呼ばれるこの機能についての研究報告は、おしっこが出にくくなったり、逆に頻尿になったりする排尿障害の治療にも役立つ可能性があるとして注目されています。

この研究チームの中心であるアーデム・パタプティアン博士は、2010年に組織の歪みを感知するメカノセンサー「PIEZO2」とその姉妹タンパク質「PIEZO1」を初めて同定した偉い先生で、その功績が認められ2021年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

PIEZO(ピエゾ)という言葉は、圧や押さえるといった意味のギリシア語らしいのですが、細胞内に情報を伝えるセンサータンパク質の一種です。私たちの身体は、刺激が与えられたときに、その刺激は神経を通じて脳に信号として伝わっていきますが、それは細胞の外側の膜に備わっているイオンチャンネルが働いて、細胞内にイオンを透過させ電気の流れを生み出すことによって信号を伝えているのです。PIEZOはそういったイオンチャネルタンパク質の一種です。つまり、PIEZOはある組織の細胞膜に伸び縮みがあったとき、その圧力や伸展・収縮の刺激を脳に伝えるセンサーなのです。

PIEZOの一種であるPIEZO2は、私たちの全身の様々な臓器や組織に存在していることがわかっています。例えば、肺の伸びを感知して呼吸を調整したり、血管内で血圧を感知したり、また皮膚の触覚を媒介する役割も担ったりしていることが判明しています。このようにPIEZOは私たちの身体の知覚において、非常に重要な働きを持っています。

アメリカの研究チームは、PIEZO2の機能がない遺伝子変異を持って生まれた2人の若い患者の協力を得て、PIEZO2の役割を検討しています。PIEZO2遺伝子に変異のある患者は、知能や読み書きなど日常生活にはほぼ問題がないにもかかわらず、目隠しをされると、ほとんど歩けなくなってしまいます。