多汗症は手のひらや足の裏、脇の下などから過剰な汗が出る疾患だ。産業医の池井佑丞さんは「日本人の10人に1人は多汗症という説がある。多汗症を放置するとQOLが低下するほか、精神状態にも悪影響を及ぼす。医療機関に相談するのがおすすめだ」という――。
脇の下の汗を確認する人
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成人男性に必要な水分摂取量は1日2.5リットル

蒸し暑いこの季節、どうしても気になるのが汗ではないでしょうか。肌がベタついたり服が湿気たりする不快感だけでなく、においも気になります。

そもそも、人はなぜ汗をかくのでしょうか。汗の最大の役割は、体温調節を行うことです。体温が上がり汗をかくと、蒸発するときに身体の表面の熱を奪い、身体や内臓、脳を冷やします。そうやって身体を一定の温度に保つという大切な役割を担っているのです。

人間の体の水分量は成人男性で体重の約60%で、1日に必要な水分摂取量は2.5リットルほどになります。普通に生活していると、尿や汗、呼吸によって、1日に2.5リットルもの水分を身体から失うためです。また人間の体液は常に一定の量に保たれるようにできており、たくさん汗をかくと喉が渇くのは、減った体液を回復させようとする身体の働きによるものです。

人間にとって水分は生存するために不可欠な成分で、5%失うと脱水症の恐れが生じ、10%失うと筋肉の痙攣や循環不全が起こります。そして20%を失うと、死に至ります。汗をかきやすいこの時期は、特にこまめな水分補給を心がけましょう(厚生労働省「『健康のため水を飲もう』推進運動」)。

そして夏場になると熱中症による脱水症が多く発生します。実際に倦怠けんたい感や熱感を主訴に職場の健康管理室に来室した結果、脱水症、熱中症で医療機関受診となるケースがたくさんあります。

汗には3つの種類がある

汗は「温熱性発汗」「精神性発汗」「味覚性発汗」と、大きく3つに分類されます。

「温熱性発汗」は暑い時にかく最もなじみのある汗です。気温の上昇や運動などで体温が上昇したときに、体温調節を図るためにかく汗です。

「精神性発汗」は痛みや緊張、不安、怒りなど、ストレスを受けたときに手のひらや足の裏に見られる汗です。ヒトがサルのように木の上で生活していた時のなごりで、獲物をとらえたり敵から逃げるときに、手足がすべらないように湿り気を与える役割を果たしていたともいわれます。

「味覚性発汗」は、辛いものや刺激物を食べたときに、顔や頭を中心に噴き出す汗です。辛み成分が口腔こうくう内にある温度センサーを刺激し、発汗神経を刺激して起こるといわれます。