毎日3000点以上の新商品を、小ロットで売り出す
シーインは、世界一のファストファッション・ブランドであるZARAを、ライバルとして、目標として、徹底的に分析した。200名のデザイナーを抱え、商品の企画・製造・出荷を30~60日という高速で実現しているZARAを超えるために、シーインは、中国最大のアパレル製造の集積地である広州・番禺区に拠点を設けた。そして、製造拠点のすぐ隣に800名ものデザイナー群を配置し、商品の企画から出荷までを最短7日間で実現する、規格外のハイスピードで商品を供給できる体制を構築していった。
商品の企画には、AIを駆使した独自のシステムを開発し、企業のHPから個人のブログ、SNSまで、世界中のオンライン上で注目を集めている画像や動画を自動分析して、現在進行形の流行を探し続ける。世界中から集まった流行の情報は、社内のデザイナーたちのチェックを経て、数日のうちに企画化され、製造へ回される。そうして、毎日3000点以上の新商品が生み出されるが、初回の製造数は、わずか100着という超小ロットになっている。
製造を請け負うすべての取引工場には、共通の受発注システムが導入され、シーインの新商品の売れ行きがリアルタイムで共有される。AIによる売上予測も踏まえ、30着売れるごとに自動で追加発注が入り、その追加発注の回数が基準を超えると「ヒット商品」として生産量を増加する仕組みだ。追加発注が入らなかった商品は、すぐに製造打ち切りとなる。
世界中で「バズる」企業として飛躍
この体制によって、シーインは、「まず小さく作り、市場で検証し、ヒット商品だけ大きくスケールさせる」というサイクルの高速回転を実現させている。まずは、世界中から集めた情報をもとに、大量の新商品を試しに作って売ってみる。実際に売り出してみて、どれが本当に売れる商品なのかを検証する。そうして、売れなければ、初回の100着のみで打ち切る。売れると分かった商品は、一気に生産を増やし、世界中に広める、というわけだ。
圧倒的な商品の量と早さ、安さを強みにライバルとの競争に勝ちあがり、TikTokをはじめとするSNSを通じたプロモーションや、有名人ではないが影響力・発信力の質に優れた一般ユーザーを重宝するインフルエンサー・マーケティングなどによって、世界中でバズり、シーインは飛躍を遂げていっている。
シーインは、製造プロセスにおける労働環境の問題、デザインやキャラクターなどの知的財産の侵害に関わるトラブル、過度なファスト化による資源環境の視点からの批判など、様々な課題の解決に取り組みながら、「いま、人気の服」がどこよりも早く安く、手軽に手に入る、究極の「ファストなブランド」を目指す道を走り続けている。
【主な参考資料】
・本庄加代子(2020)「マーケティングケース-シリーズ143 新しい『服』を創造するユニクロのブランド・イメージの変化とそのアイデンティティのマネジメントの考察」日本マーケティング学会『マーケティングジャーナル』40(2), 94-103.
・KANTAR「Kantar BrandZランキング アップルが世界で最も価値のあるブランドとして王座を維持」2023年6月16日
・BUSINESS INSIDER「『世界ブランドランキング2023』ユニクロは『SHEINと対極』と評価…トップ100に“常連”トヨタとNTT、ソニー【調査】」2023年6月19日
・ファーストリテイリング「業界でのポジション」
・ファーストリテイリング「グループ店舗一覧」
・日経ビジネス電子版「なぜユニクロは世界一になれたのか」2021年4月22日
・Forbes JAPAN「日本一の富豪 柳井 正が『ユニクロ』ブランドを築くまで」2020年3月12日
・ベンチャー通信8号(2003年7月号)「やる前から考えても無駄 株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長 柳井正」
・経済産業研究所「ユニクロ絶好調の秘密と日本の繊維産業」2001年6月8日
・36Kr Japan「中国発ファストファッション『SHEIN』、22年の売上高は約3兆円 米IPO計画も加速か」2023年2月27日
・東洋経済オンライン「アパレル初!謎の1兆円未上場企業『SHEIN』の正体」2021年9月7日
・BUSINESS INSIDER JAPAN「評価額1000億ドル超えのアパレルEC『SHEIN』。メディアに出ない潜伏戦略はなぜ破られたのか」2022年10月11日
・business leaders square wisdom「中国発EC『Shein(シーイン)』は『究極のビジネス』か? 『売れる商品』を特定し、速く、安くつくる仕組み」2022年8月24日
・中華IT最新事情「SHEINの成功の秘密はイノベーションではなく改善。持続型イノベーションのお手本となったSHEIN」2022年10月11日