未上場の巨大ベンチャー「SHEIN」
シーイン(SHEIN/希音)は、2021年にAmazonを抜いてアメリカで最もダウンロードされたショッピングアプリになり、2022年にはバイトダンス、スペースXに続いて3社目に企業価値1000億ドルを突破した未上場の巨大ベンチャーだ。
世界150カ国以上でサービスを展開するシーインは、長らく業績を公開してこなかったが、アメリカでの上場を目指して表に出した情報によれば、2022年の売上高は約3兆600億円にのぼり、2025年には約7兆8800億円を目標に掲げており、一躍、世界トップのファストファッション・ブランドに名乗りをあげている。
シーインは、「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代の若年層をメインターゲットに、店舗は構えず、アプリやECサイトを通じたオンライン販売に特化しているのが特徴だ。女性向けのアパレルを中心に、メンズ・キッズ・アクセサリー・雑貨など幅広いジャンルで、毎日3000点以上の新作アイテムを発売する。「早く安くトレンドを押さえる」、「掘り出し物を見つける」、そして「値段を気にせず、試し買い・衝動買いできる」ファストファッション・ブランドとして、急成長を遂げている。
ウエディングドレスの越境ECビジネスだった
シーインは、中国・山東省出身の許仰天(クリス・シュー)氏が2008年に創業した会社から始まった。大学卒業後、エンジニアとして働いていた許氏が、勤務先の展開する越境ECビジネスに関心を持ち、「中国で製造されたウエディングドレスを、アメリカに持っていけば、中国での市場価格の10倍以上で売れる」という話を耳にしたことがきっかけだ。友人2名と共に、中国で作ったウエディングドレスをアメリカでオンライン販売するビジネスに着手した。
ウエディングドレスの越境ECビジネスで一定の成果を得られたものの、同じ手法のライバルが続々と出てきて競争が激化し、また、ウエディングドレスという商品だけではリピーターが生まれないために限界を感じたという。そこで、2011年に商品ジャンルを女性アパレル全般に広げ、「SheInside」というブランドを立ち上げた。これが、2015年から「SHEIN(シーイン)」に更新されることになる。
シーインは、格安アパレルが無数にある中国国内市場は初めから想定せず、海外市場の開拓に集中して、欧州各国、中東諸国、そしてアメリカなど、ビジネスの展開を海外で拡大させていった。しかし、当初は、中国で製造した安い衣服を、海外で販売するだけのブランドとして、大きな注目は集めていなかった。飛躍を始めたのは、「リアルタイムファッション」と呼ばれるほど、早く安く、圧倒的な商品量を供給できる体制を構築してからだ。