「最も価値のあるブランドランキング2023」の2位と5位
低価格・高品質・ファッション性という3つの特徴を兼ね備えた「ファストファッション」は、日本だけでなく世界中で多くの消費者から支持され、人気を集めている。どんな衣服を選んで着るかによって、人のアイデンティティや価値観などが表されることが研究で明らかにされている。そのため、ファストファッションが浸透することで、人々が自分に合った衣服を自由に選べるようになり、それによって新たな価値観が生まれてくる転機になる、という視点からも注目されている。
イギリスの調査会社・カンターの発表した「最も価値のあるブランドランキング2023」において、アパレル分野のトップ5に、アジアの2つのファストファッション・ブランドがランクインした。それが、日本のユニクロ(5位)と中国のシーイン(2位)だ。この2つのブランドは、どちらもファストファッションだが、じつは進んでいる道が大きく異なっている。
流行よりもスタンダード化を目指し、「世界のスタンダード」への道を進む日本のユニクロ。流行の早さと安さを追及し、「世界一のファスト」を目指す道を突き進む中国ベンチャーのシーイン。じつは知らない、似て非なる2つのファストファッション・ブランドの進む道について、詳しく見てみよう。
ユニクロの始まりは山口県の小さな紳士服店
ユニクロは、スペインのZARA、スウェーデンのH&Mに続き、アパレルで世界3位の約2.3兆円の売上高を誇るファストファッション・ブランドだ(2022年)。2023年5月末の時点で、世界に2440店(国内807店、海外1633店)を展開する世界的ブランドだが、その始まりは、山口県宇部市の商店街の小さな紳士服店にさかのぼる。
1972年、父の経営する小郡商事(現、ファーストリテイリング)に入社した柳井正氏は、トライアル&エラーを重ねながら会社を変革していった。1984年、35歳の時に社長に就くと、郊外型の店舗で、カジュアル衣料を低価格で販売するセルフサービスの「倉庫」のような店として、広島市にユニクロ1号店をオープンした。当時は、父から引き継いだ会社を潰さないようにすることが第一で、どんなに上手くいっても多店舗展開は30店舗が限度、売上30億円が自分のできる精一杯だろう、と考えていたという。
ユニクロが軌道に乗り、実際に売上が20億円、30億円と伸びていくと、新たな夢がふくらんできて、柳井氏は、世界を狙うようなビジネスにしたいと考えを改めた。それで、1991年に現在の社名に変更し、SPA(製造小売業)として「作って、運んで、売る」というプロセスをすべて自前で管理することで、高品質で低価格な衣服を実現し、全国へのチェーン展開を本格的に進めていった。この頃、「アメリカのGAPを超える会社になる」と宣言する柳井氏を、周囲はまだ失笑して見ていたそうだ。