痛みの認知率は27.1%→84.4%まで上昇

つまり、「頭がガンガンする」「頭がズキズキと痛む」と言う患者さんがいたら群発頭痛、「右胸がチクチクする」「左の背中がズキズキ痛む」と言う患者さんは帯状疱疹後神経痛である可能性を示したのです。

このように疾患と痛みのオノマトペとの相関がわかると、痛みのオノマトペが見えない病気を診察する助けになります。患者さんと医師のコミュニケーションがスムーズになり、神経の痛みの治療がより適切なものになる可能性が高まるのです。ここが私たちの1つの到達点でした。

私たちの一連の取り組みは、社会からどのような反応が得られたのでしょうか。

まず、「炎症による痛み『侵害受容性疼痛』と、感覚神経による痛み『神経障害性疼痛』の2種類の痛みがある」という認知が大幅に上がりました。神経性の痛みの認知率は、活動開始時は27.1%だったのが、1年後には84.4%まで上昇したのです(2012年「長く続く痛みに関する意識調査」、2013年「慢性疼痛に対する患者と医師の意識比較調査」より)。

最終的には、神経の痛みで受診する患者さんの数も、活動開始時には26万人だったのが、1年後には年間195万人まで増加しました(2012年「長く続く痛みに関する意識調査」、2013年「慢性疼痛に対する患者と医師の意識比較調査」より)。

医療分野でもオノマトペ研究が進むように

さらに、見えない痛みを持つ人たちに向けてアンケート調査(2013年「慢性疼痛に対する患者と医師の意識比較調査」)を実施したところ、次のようなことがわかりました。

以前は、「医師や看護師に痛みをうまく説明できなかった」と回答していた人が74.7%いました。それが1年後には、医師に痛みを伝えるときにオノマトペを使う人は82.8%、それによって医師や看護師に痛みが伝わったと実感した人は80.7%となり、オノマトペが患者さんと医師のコミュニケーションに役立っている様子がわかりました。

最後に社会デザイン発想の「喚起」をまとめます。喚起とは、新しい「あたりまえ」が社会の多くの人たちから共感されるかを問うために、社会に議論を起こすことです。

新しい「あたりまえ」とは、痛みのオノマトペが世の中に浸透し、慢性的な痛みを持つ患者さんと医師のコミュニケーションがスムーズに行われるようになることでした。今、痛みのオノマトペが医療現場で理解されるようになり、医療コミュニケーションに役立てられています。

さらには、医療の専門家たちの間でオノマトペ研究が独自に進められるようになりました。国立国語研究所が論文にしたり、日本皮膚科学会の医師たちが帯状疱疹の症状を伝えるためのオノマトペ研究を始めたりするなど、議論が自発的に深まっています。東北にある大学の医学部でも、医療コミュニケーションの一環としてオノマトペの講義が導入されました。