西井によれば、58年生まれの母はウーマンリブやフェミニズムに触発され、「規範」から解放されることに肯定的、または促す人だった。優等生の西井が学校で「いい子」と評価されると「おもんない」と言い、連絡帳に書かれた先生の記述を消した二葉には「アホやなー」とほめた。父は学童保育の指導員で、2人はその学童に通っていた。
女性落語家への違和感 自分は嘘なくアホができる
西井の観察では、父の手前ヤンチャに振る舞えない二葉は、学童の“アホなお兄さん”への憧れを強く持っていた。その一方で身体能力が高く、学童で取り組んでいた和太鼓が群を抜いてうまく、発表のたびに圧倒的に目立ったのが二葉だった。
アホ=愛嬌(あいきょう)ある目立ちたがり屋への憧れに、和太鼓で注目された原体験があるから、「落語家になるって聞いた時、違和感はありませんでした」。
二葉を落語に結びつけたのは、実は鶴瓶だ。大学時代、「きらきらアフロ」というトーク番組を見て好きになり、追っかけになる。落語会にもすぐに行き、他の落語家も見るようになった。女性落語家を見ると違和感を覚え、その理由を知りたくて全員を見に行った。無理をしている、特にアホな人を演じると痛々しい。そうわかった。
「いけると思いました。自分がアホやという自信は子どもの時からあったけど、言えずに来た。でも落語でならできる。自分なら嘘(うそ)なくアホができる」。入門に備え貯金をしようと就職、師匠を探して米二にたどりついた。
毎日新聞大阪本社学芸部記者の山田夢留(むる)(46)は、駆け出しの頃の二葉の言葉にハッとさせられた。「女性というのは、アホと距離がある」。すごく腑(ふ)に落ちた。小さい頃から面白いことを言うのは男の子で、女の子は「しっかりしなさい」と育てられる。だから女性がシンプルに面白いことを言っても、見る側が「女性」というフィルターを通すから笑えない。今も「痩(や)せてる」「太ってる」をネタにしがちな女性お笑い芸人のことなども含め、「笑いとジェンダー」が氷解する一言だった。