東京五輪後、プロになる気は一切なかった

【武中】東京オリンピックは元々2020年に行われる予定でした。それが新型コロナで1年延期。1年間、モチベーションを保つのは大変ではなかったですか?

【入江】延期になったので、ちょっと休もうかなと思ったんです。そうしたら、いろんな方に「お前、チャンスだぞ」って言われたのもあって頑張りましたね。

【武中】チャンス?

【入江】1年間の間に大人の身体になったというか、フィジカルが強くなりました。1年の延期がなかったら、違った結果になったかもしれません。運が良かったんですよ、私。

【武中】選手として大きく成長する時期とたまたま重なっていたんですね。東京オリンピックが終わった後、次のオリンピックまで競技を続ける、あるいはプロに転向することは考えませんでしたか?

【入江】全くなかったです。(次のオリンピックが開かれる)パリまでやったら、次のロサンゼルスまでやろうとかずるずる現役を続けそうだなというのがありました。

大学卒業とともに引退するのがキリがいいかなと。プロになる気は一切なかったです。プロとして観せられるボクシングではないと自分で分かっていたので。

カエルの話をしても「あー可愛いね」で終わらない環境

撮影=中村治

「大学院って本当にいいところだな、って思うんです」

【武中】さて、現在、入江さんは東京農工大学の大学院でカエルの研究をされています。カエルとの出会いは米子西高校の2年生のときだったとか。

【入江】下校途中に、あじさいの葉っぱにぶつかったんです。そのとき、葉っぱじゃない感覚があった。そうしたら、カエルが葉っぱの上でちょこんとこっちを見ていたんです。そこで一目惚れしてしまった。

【武中】今、飼われているのは、南米産のベルツノガエル“ジャイ子”ですよね。ジャイ子とは東京のご自宅で一緒に生活しているんですか?

【入江】いえ、(日本体育大学の)寮が生き物禁止だったので、(米子在住の)父親に面倒をみてもらっています。私はたまに帰って、可愛いがるだけ。いいとこ取りさせてもらっています(笑)。

【武中】大学卒業後、就職も考えたそうですが、カエルの勉強をしようと大学院進学を決めた。その中で東京農工大学大学院を選んだ理由はなんだったんですか?

【入江】カエルの研究ができること、そして東京から離れたくなかったのも大きかったです。指導教官である、岩井紀子先生にお会いしてみたら、人柄がすごく良かったんです。入試科目も含めて、東京農工大学がパーフェクトでした。

【武中】大学院の入試は専門科目の他、英語などもありますよね。国際試合経験豊富ですから、元々英語は得意だったんですか?

【入江】あー、いやー、国際大会のときは通訳がついていますし、今は(スマートフォンの)翻訳アプリという文明の利器があります! だから普通に勉強しました(笑)。

【武中】カエルの論文は日本語、英語どちらが多いんですか?

【入江】英語です。たくさんの論文を読まないと、いい論文を書けないんで頑張っています。大学生時代から比べると少しずつ英語は上手くなりましたけれど、先生や先輩と比べると、全然まだまだだなって思っています。

【武中】ぼくたち医学の世界も英語の論文を読むのは必須。専門領域はキーワードというか単語が限られていますからすぐに理解できるようになる。

文法とか気にせず、単語をつなげていけば専門家相手なので伝えることもできる。本来、語学とは手段に過ぎない。だから、文法の細かなところなど気にしないでいいと思いますよ。

【入江】まずはボキャブラリーを増やさないといけないですね。今はとにかく大学院生活が楽しい。大学時代は、カエルの話をしたら、「あー可愛いね」で終わってしまう。

ところが大学院の人たちは、違った角度からカエルの話が始まるんです。それが面白くて仕方がない。大学院って本当にいいところだな、って思うんです。

【武中】みんないい意味でのオタクなんでしょうね(笑)。