中国に関心を持ち、話をつけられる人材育成を

日本と中国がどのような関係を築くにしろ、欠かせないのは人脈である。しかし現在、中国に太いパイプを持つ人がいなくなってしまった。

外務省ではかつて親中のチャイナスクールが一大勢力だった。しかし、民主党政権のときに実業家の丹羽宇一郎氏を中国大使に起用してから、パワーバランスが崩れて省内での力を失った。

民間企業も苦慮している。今年3月には、アステラス製薬の日本人社員が反スパイ法に違反した容疑で、中国当局に拘束された。中国でビジネスをする日本人は、中国に詳しくなるほど刑務所に入れられるリスクが高まる。これではパイプ役が育たない。

日本の政治家や官僚、ビジネスパーソンに中国と人脈を築く思惑があっても、習体制のもとでは厳しい。3期目に入って、習氏は自らが属する太子党のライバル、中国共産主義青年団の排除を明確にした。今では、かつての赴任地で仕えてくれた仲間たちで周りを固め、誰がナンバー2なのかはっきりしない。これでは、誰に日中関係のことを話せばいいのかわからない。

以前は地方政治で経験を積んで中央政府へと続く出世ルートがあった。共産党の中枢にパイプが欲しい日本人は、これから出世するだろう地方政府の有力な書記や省長、市長と親交を深めた。しかし、このルートも習体制になってから機能しなくなり、目立つ人物はむしろ粛清の対象になっている。

中国と意思疎通をしたければトップの習氏と直接話すしかないが、それをできうる日本人が3人いる。

まず田中真紀子元衆議院議員と、創価学会の池田大作名誉会長だ。中国には「井戸を掘った人を忘れない」ということわざがある。これは中国に尽力した人は厚遇するという意味で、日中国交正常化を果たした田中角栄元総理(亡きあとは娘の真紀子氏)、布教のためにそれを支援した創価学会の池田大作氏が“井戸を掘った人”に当たる。

その2人は政治の表舞台から姿を消しているが、現役にも習氏と会える人がいる。田中派の流れをくむ二階俊博衆議院議員だ。ただし、政治家として評価されているからではない。二階氏は訪中時に企業経営者を大量に引き連れていく。中国側はそれが目当てだ。

しかし、政府が福島第一原子力発電所の「ALPS処理水(汚染水)」の海洋放出を24日に開始したことで、状況が一変した。中国は対日強硬姿勢を取って対話を拒み、池田大作氏の名代といえる山口那津男公明党代表に加えて、二階氏でさえも、訪中が叶わなくなった。結局、本当に困ったときに中国に駆けつけて話をつけられるような政治家や役人が、日本には誰もいないのだ。

中国と外交をできる政治家が育たないのは、中国への理解や関心が希薄だからだ。普段仲良くない、どちらかというと嫌いな奴が困ったときだけ近寄ってきても、鬱陶しいだけだろう。

旗を描いた手で中国と日本の指導者の間の外交的握手
写真=iStock.com/Kagenmi
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日中関係は健全な状態に保っていきたい。対中問題で机上の空論を語るのではなく、まずは最低限、中国に関心を持って知ろうとする姿勢を政治家には持ってもらいたいものだ。中国をアメリカのレンズを通して見るのではなく、2000年来の友人として見ることのできる人材の育成が、今一番求められているのではないだろうか。

(構成=村上 敬)
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