3つの摩擦因子を解決すれば一気に転換が進む

――EVシフトでは何が摩擦因子となるのでしょうか。

1つは、電池と内燃機関のコストの差です。これは今後小さくなり、25年までにエンジン車とEVのコストは等しくなると思います。そして、より多くの人がEV技術に投資をするようになります。電池に関する化学的な知見がさらに深まれば、航続距離が長くなったり、載せる電池が減ったりします。すると、EVがエンジン車よりも安い時代がやってきます。

もう1つの摩擦因子は航続距離です。1回の充電でどれだけの距離を走れるか。航続距離はインフラに密接に関わってきます。同じ距離を走れるガソリン車とEVがあったとき、多くの人はガソリン車の方が使いやすいと感じるでしょう。ガソリンスタンドならすぐに見つかると知っているからです。適切な充電インフラがあれば、消費者はもっと気楽にEVを使えるようになります。街中に100カ所も充電場所があれば、膨大な容量のバッテリーが必要だとは感じないでしょう。

そして最後に充電速度です。私たちは800ボルトのシステムへの移行を進めています。そうすれば180キロメートル走行できるだけの充電が約7~8分で完了するようになります。これが標準となっていくでしょう。

ボルボは早くから投資をしてきたので、変曲点を迎えたときには良い立ち位置にいられるはずです。大手メーカーの中には、待ちの姿勢で「今あるエンジン車の資産を最大限生かし続けよう。市場が変わるまで待って、変わったらすぐに新技術に乗り出すんだ」と考えているところもあります。でも、いざその時が来たら、遅すぎるかもしれません。

自動車全体のOSは実現が難しい

――スマホ業界では、グーグルとアップルが市場をコントロールする存在になりました。自動車業界でもそのようなことが起こると思いますか。

スマホでは1つのソフトウエアプラットフォームが端末全体を制御していますが、自動車に総合的なOSを入れ込むのはスマホよりずっと複雑で難しいという違いがあります。自動車の走行や安全に関わるソフトウエアで主導権を握るのは自動車メーカーです。

自動車の操作と動きの開発について、私たちは100年の歴史を持ち、深い知識を持っています。では、ボルボのソフトウエアで制御する車の操作や動きはどうなのか。より快適なのか。そこに価値が生まれるわけです。

「セーフティー・クリティカル・ソフトウエア」とでも呼びましょうか。スマホであれば、動かなくなったり再起動が必要になったりした場合、命に関わることはなく、不便な思いをするだけで済むかもしれません。ですが、自動車の走行に関わる部分はそうはいきません。安全性の担保は自動車では不可欠な要素です。

ボルボのディーラー
写真=iStock.com/Luca Piccini Basile
※写真はイメージです