EUが進める電気自動車(EV)シフトに変化があった。2023年3月、エンジン車の新車販売を2035年に全面禁止する方針を変更し、環境に良い合成燃料(eフューエル)を使ったエンジン車は認めると発表したのだ。何が狙いなのか。日経BP ロンドン支局長の大西孝弘氏が、欧州委員会ナンバー2に取材した――。

※本稿は、大西孝弘『なぜ世界はEVを選ぶのか 最強トヨタへの警鐘』(日経BP)の一部を再編集したものです。

EUの環境政策を統括したティメルマンス氏

なぜ欧州委員会は土壇場でエンジン車の容認に動いたのか。その1カ月前のインタビューでのティメルマンス氏の発言を注意深く追うと、欧州委員会が何を重視していたのかが見えてくる。言葉の端々から伝わってくる最大の目的は、欧州の自動車産業の強化にある。

フランス・ティメルマンス
欧州委員会 上級副委員長(取材当時)

1961年生まれ。87~90年にオランダ外務省の政策担当官、90~93年にロシア・モスクワのオランダ大使館の2等書記官を務める。2012~14年にオランダ外相。14~19年に欧州委員会の第1副委員長として法律などを担当。19年から23年8月まで欧州委員会 上級副委員長を務め、欧州グリーンディールなどEUの環境政策を統括した
欧州委員会のティメルマンス第1副委員長=2019年7月23日、ベルギー・ブリュッセル
写真=EPA/時事通信フォト
欧州委員会のティメルマンス第1副委員長=2019年7月23日、ベルギー・ブリュッセル

排出ガスフリーの鍵はEVと燃料電池

――EUは35年に内燃エンジン車の販売禁止という規制を導入します。EU域内における22年の新車販売にEVが占める比率は12%ですが、自動車各社や消費者は35年までに対応できると思いますか。

はい。この移行の可能性を徹底的に分析しました。多くの自動車メーカーが35年より前に排出ガスフリーになるでしょう。30年より前にその目標を設定しているメーカーもあり、その全てが排出ガスフリーを達成できると思います。

基本的には2つの技術に基づいています。1つはEVで、これが最も普及するでしょう。もう1つは、日本でも人気の高い、燃料電池を使った水素ベースの技術です。(欧州には)日本の自動車メーカーと密接に連携して、最高の技術を開発しているメーカーもありますね。また、日本ではEUよりももう少し長い間、HVを使い続けることになりそうですよね。

私たちにとっては、35年というターゲットが一般的に良い目標だと受け止められています。そして、(CO2と水素でつくる)eフューエルの利用などについての議論もありましたが、経済的な観点からあまり意味がないことが分かりました。