欧州の自動車メーカーはEVシフトを加速させている。なかでも、スウェーデンの高級車メーカー・ボルボは「2030年までに新車販売の全てをEVにする」という目標を掲げる先駆け的存在だ。完全EVシフトは本当に可能なのか。日経BP ロンドン支局長の大西孝弘氏が、ボルボCEOに聞いた――。

※本稿は、大西孝弘『なぜ世界はEVを選ぶのか 最強トヨタへの警鐘』(日経BP)の一部を再編集したものです。

IT出身CEOが鳴らす自動車業界への警鐘

ボルボのジム・ローワンCEOには、1年ほどの間に3回インタビューする機会を得た。就任から間もない2022年6月の初回こそ話の内容がやや抽象的だったが、23年2月および6月の2回目と3回目は、テック業界の構造転換と照らし合わせながら自動車業界に警鐘を鳴らすなど、より踏み込んだ話になった。異業種の出身者だからこそ見えるEVシフトの本質とは何か。総集編でお届けする。

ジム・ローワン
ボルボ・カーCEO

カナダのブラックベリーなどで約20年以上、製品開発やサプライチェーン(供給網)構築に従事。2017年に英家電大手ダイソンのCEOに就任し、EVプロジェクトを推進した。22年3月より現職
ボルボのジム・ローワンCEO
筆者撮影
ボルボのジム・ローワンCEO

ソフトを理解していないメーカーの暗い未来

――IT(情報技術)業界出身のローワンCEOから見て、今後の自動車業界ではどんなことが重要になっていくと思いますか。

私は技術畑出身で、ブラックベリーやダイソンの家電部門などに所属してきました。自動車業界とテック業界の大きな違いは、設計して市場に出す方法だと思います。自動車業界を理解し始めた時にとても驚いたのは、いかに多くの技術がティア1のサプライヤーに外注されているかということでした。そうしたサプライヤーから電子制御ユニット(ECU)などを購入して、それらを組み合わせているのです。

それこそが、私たちがコアコンピューター・アーキテクチャー(車内の主要機能を管理するコンピューターを中核とするシステム構造)へと移行している理由であり、ソフトウエアを動かす半導体をさらにコントロールできるようになりたいと考える理由でもあります。

クアルコムやエヌビディアなどの企業から半導体を購入していますが、その技術やチップへの書き込み方法、レーダー、ブレーキなど、車の機能をコントロールする全てのソフトウエアを深く理解したいと考えています。ソフトウエアと半導体は未来を大きく変える要素であり、それを理解していない自動車メーカーの先行きはかなり厳しいでしょう。