犬の鳴き声を日本人は「ワンワン」と表すが…

例えば、1章でお話しした「ゴロゴロ」ということば。もとは「雷がゴロゴロ鳴る」とか、「岩がゴロゴロ転がる」というように、音を模したことばだったと思うのですが、比喩的に転用されるようになると、例えば「おなかがゴロゴロする」「日曜日に家でゴロゴロしていた」などと使われるようになります。

【為末】確かにわかりやすいですね。

【今井】オノマトペの音というのは、環境の音の単なる模倣ではなく、それぞれの言語の音の特徴を使ったものなので、その音と感覚で、オノマトペの形態も変化します。犬やニワトリの鳴き声の表し方は、言語によって驚くほど異なるのですが、それはひとつに、音自体が、言語によって異なる音のシステムに依拠しているためでしょう。

為末大、今井むつみ『ことば、身体、学び』(扶桑社)
為末大、今井むつみ『ことば、身体、学び』(扶桑社)

また、もとは音の模倣であったものが、言語の記号として、文法の中に統合されると、それによって使われ方が制限されるということが起こります。

例えば「よろよろ」はオノマトペで音と意味のつながりを感じますが、「よろよろ」から派生した「よろめく」という動詞はオノマトペという感じがあまりしません。逆に、先ほどの「しわしわ」のように、もとは「皺」というものの名前であったものに、オノマトペの形式をあてはめることで、新たな視覚的感覚が生まれることもある。

オノマトペの歴史には、言語の抽象性やシステム性といったエッセンスが詰まっていて、面白いですよ。

【為末】オノマトペの歴史』、読んでみます。

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